時は命なり 現場改善:発想の転換(その4)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「現場改善:発想の転換」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第4回目となります。

 

◆ やらなくてよいことを見つけ出す

1. 1日24時間で、足りますか?

 1日が24時間というのは、万人に与えられた共通の時間枠ですが、その使い方は実に多種多様です。時間の達人は、24時間を30時間のように活用して他人より何倍の仕事をこなしますので、大切な仕事を任すなら「忙しい人に頼め!」といわれるほどです。

 逆に時間の使い方が下手な人は、その日の仕事を終えることができなく、残業や他人に手伝ってもらったりしてやりくりしています。普通に仕事をしていますと、やるべきことが段々増えてきて、時間が足らなくなるものです。そのために事前の綿密な計画を立てるようにしますが、そうしても予期しなかった飛込みのアクシデントや雑用などが入ってきてしまうと、当初の計画が無残にも無しの礫(つぶて)になってしまうことは世の常です。

 そうこうしていると、手を十分に打っていなかったことが突然にほころびてしまい、問題が問題を呼び起こす増殖状態に陥ってしまいます。後手後手の仕事となり、ついには悪魔のサイクルに突入して二進も三進も行かなくなり、発狂しそうになります。ご多分に漏れず著者も同様な時期がありました。

 

 その対応として、一番簡単な方法が時間延長して仕事の時間をつくるという残業の手段があります。8時間でできなかったことを、残業することで何とかやりくりができます。ただ、一度その手を使い出すと、毎日の残業が普通になってしまい、8時間の仕事を10時間でやればよいという逆に間延びした仕事になるものです。

 なかには、ワザと8時間でできる仕事を残業することで残業代を稼ぐ給料泥棒もいるかもしれませんが、このように間延びさせることは問題のすり替えであって、時間の問題解決にはなりませんので、その方法ではなく、仕事内容を改善し、短時間でできるようにすことが本来の打ち手です。仕事を標準化して、山積み表のように山崩し谷埋めのように負荷の少ない人に再分配したり、仕事を多能工化して誰でもできるようにする方法もあります。

 

2. 計画とは、要らないものを明確にして捨てるもの

 では、仕事内容の改善方法について考えてみましょう。仕事を時間通りに進めるには、計画を立て全体が見えるようにして管理する方法が一般的です。その時にやりがちなことは、何でもかんでも計画の中に盛り込もうとする欲張り主義があります。

 狙った高い目標を達成するために、色々な項目をドンドン計画の中に入れ込んでしまうのです。できそうもないことまで計画に詰め込んでしまい、挙句の果ては絵に描いた餅になってしまうことが往々にしてあるものです。余りにも多くのことをやろうとするため、逆に本当にやるべきことが分からなくなってしまうのです。

 計画を立てるということは、必要なものを取り込んでその枠内に上手く組み込むことのようですが、実は要るものと要らないものを明確にして、本当に必要なものから優先順位をつけていくようにすればよい方法もあります。

 

 一つの事例として、工場を訪問していますと色々な掲示物を見ることがあります。なかには、1つの管理板に数十枚におよぶ帳票やグラフなどが展示されていることがあります。従業員の皆さんにインタビューしてみましても、ほとんどの場合、貼り出した時に目を通すだけで、この提示物から自分たちは次にどのようにすべきかというアクションを意識することはほとんどないそうです。

 著者が拝見しても、作成者の意思がほとんど感じられないものばかりです。言い方は悪いかもしれませんが、苦労して作成した人に対して、その労力に対しての報いはあるのか疑問を持たざるを得ません。その人も上司から強制的に命令された「やらされ仕事」であったかもしれませんが辛いですね。

 著者なら苦労して作成したグラフには、さらに手を加えて「皆さんにはこの結果によりこのようにしてほしい」などのコメントを記入します。

 しかもそのアピールしたい部分を手書きにしますと、従業員の方は覗(のぞ)き込むように掲示物を見てくれます。面白いもので、ワープロやパワーポイントなどの機械的な処理をした提示物よりも、少し綺麗(きれい)とはいえない手書きや下手な漫画を入れた方が、人は興味を持ち食い入るように見るようです。少し手を加えてでも、皆さんの感心事にしてアクションに結びつけることが大切だと思います。

 このように工場内では、ずるずると習慣になってしまっている仕事や作業が非常に多くあるはずです。今までのものの見方ではなく、その仕事の目的は何か、成果は何かという視点で仕事や作業を見直すとよいでしょう。

 

3. やめることは何かを考える

 時間は有限ですので、それを上手く活用する方法として、発想を替えて「やるべきこと」よりも「やめること」は何かを考えてみましょう。

 今までやるべきことに注力しすぎて、何でも取り込もうとしていた仕事内容について、時間を有効的に使うため、やめてもよい仕事や作業はあるかどうかを真剣に探していくのです。これはつくり上げていくことではなく、あるものを打ち崩していく考え方なので、考えようによっては非常に簡単です。

 しかし、これには上司や今までの習慣とのしがらみもあろうかと思いますが、この際時間がないことを口実に思い切った改善を行いましょう。反発に対しての懸念もあるかと思いますが少しの勇気を持ち、インプットに対してアウトプットが少ないものや付加価値の少ないものなど、ドンドンやめていくようにしていきましょう。

 

 有名な会社の話ですが、1年間の失敗を集め最も大きな失敗をした人...

生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「現場改善:発想の転換」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第4回目となります。

 

◆ やらなくてよいことを見つけ出す

1. 1日24時間で、足りますか?

 1日が24時間というのは、万人に与えられた共通の時間枠ですが、その使い方は実に多種多様です。時間の達人は、24時間を30時間のように活用して他人より何倍の仕事をこなしますので、大切な仕事を任すなら「忙しい人に頼め!」といわれるほどです。

 逆に時間の使い方が下手な人は、その日の仕事を終えることができなく、残業や他人に手伝ってもらったりしてやりくりしています。普通に仕事をしていますと、やるべきことが段々増えてきて、時間が足らなくなるものです。そのために事前の綿密な計画を立てるようにしますが、そうしても予期しなかった飛込みのアクシデントや雑用などが入ってきてしまうと、当初の計画が無残にも無しの礫(つぶて)になってしまうことは世の常です。

 そうこうしていると、手を十分に打っていなかったことが突然にほころびてしまい、問題が問題を呼び起こす増殖状態に陥ってしまいます。後手後手の仕事となり、ついには悪魔のサイクルに突入して二進も三進も行かなくなり、発狂しそうになります。ご多分に漏れず著者も同様な時期がありました。

 

 その対応として、一番簡単な方法が時間延長して仕事の時間をつくるという残業の手段があります。8時間でできなかったことを、残業することで何とかやりくりができます。ただ、一度その手を使い出すと、毎日の残業が普通になってしまい、8時間の仕事を10時間でやればよいという逆に間延びした仕事になるものです。

 なかには、ワザと8時間でできる仕事を残業することで残業代を稼ぐ給料泥棒もいるかもしれませんが、このように間延びさせることは問題のすり替えであって、時間の問題解決にはなりませんので、その方法ではなく、仕事内容を改善し、短時間でできるようにすことが本来の打ち手です。仕事を標準化して、山積み表のように山崩し谷埋めのように負荷の少ない人に再分配したり、仕事を多能工化して誰でもできるようにする方法もあります。

 

2. 計画とは、要らないものを明確にして捨てるもの

 では、仕事内容の改善方法について考えてみましょう。仕事を時間通りに進めるには、計画を立て全体が見えるようにして管理する方法が一般的です。その時にやりがちなことは、何でもかんでも計画の中に盛り込もうとする欲張り主義があります。

 狙った高い目標を達成するために、色々な項目をドンドン計画の中に入れ込んでしまうのです。できそうもないことまで計画に詰め込んでしまい、挙句の果ては絵に描いた餅になってしまうことが往々にしてあるものです。余りにも多くのことをやろうとするため、逆に本当にやるべきことが分からなくなってしまうのです。

 計画を立てるということは、必要なものを取り込んでその枠内に上手く組み込むことのようですが、実は要るものと要らないものを明確にして、本当に必要なものから優先順位をつけていくようにすればよい方法もあります。

 

 一つの事例として、工場を訪問していますと色々な掲示物を見ることがあります。なかには、1つの管理板に数十枚におよぶ帳票やグラフなどが展示されていることがあります。従業員の皆さんにインタビューしてみましても、ほとんどの場合、貼り出した時に目を通すだけで、この提示物から自分たちは次にどのようにすべきかというアクションを意識することはほとんどないそうです。

 著者が拝見しても、作成者の意思がほとんど感じられないものばかりです。言い方は悪いかもしれませんが、苦労して作成した人に対して、その労力に対しての報いはあるのか疑問を持たざるを得ません。その人も上司から強制的に命令された「やらされ仕事」であったかもしれませんが辛いですね。

 著者なら苦労して作成したグラフには、さらに手を加えて「皆さんにはこの結果によりこのようにしてほしい」などのコメントを記入します。

 しかもそのアピールしたい部分を手書きにしますと、従業員の方は覗(のぞ)き込むように掲示物を見てくれます。面白いもので、ワープロやパワーポイントなどの機械的な処理をした提示物よりも、少し綺麗(きれい)とはいえない手書きや下手な漫画を入れた方が、人は興味を持ち食い入るように見るようです。少し手を加えてでも、皆さんの感心事にしてアクションに結びつけることが大切だと思います。

 このように工場内では、ずるずると習慣になってしまっている仕事や作業が非常に多くあるはずです。今までのものの見方ではなく、その仕事の目的は何か、成果は何かという視点で仕事や作業を見直すとよいでしょう。

 

3. やめることは何かを考える

 時間は有限ですので、それを上手く活用する方法として、発想を替えて「やるべきこと」よりも「やめること」は何かを考えてみましょう。

 今までやるべきことに注力しすぎて、何でも取り込もうとしていた仕事内容について、時間を有効的に使うため、やめてもよい仕事や作業はあるかどうかを真剣に探していくのです。これはつくり上げていくことではなく、あるものを打ち崩していく考え方なので、考えようによっては非常に簡単です。

 しかし、これには上司や今までの習慣とのしがらみもあろうかと思いますが、この際時間がないことを口実に思い切った改善を行いましょう。反発に対しての懸念もあるかと思いますが少しの勇気を持ち、インプットに対してアウトプットが少ないものや付加価値の少ないものなど、ドンドンやめていくようにしていきましょう。

 

 有名な会社の話ですが、1年間の失敗を集め最も大きな失敗をした人を、大金の賞金まで付けて表彰する制度があります。これも会社にとって辛い失敗を全員にオープンにすることで、二度と同じ失敗を繰り返さないようにしましょうとアピールするという非常に優れたやり方だと思います。ネガティブなことをオープンにしないことが、被害が少なく済むように思いますが、会社にとっては逆に再発防止やその効果が非常に期待できるはずです。

 「何をしようか」と躍起になっていることから離れ、今後は「何をやめるべきか」について書き出してみましょう。一度にたくさんのことはできないものなので、少しずつ一つでも良いから行動に移してみましょう。脳の潜在意識の現状メカニズムが働いていますので、一気に変えることは無理ですが少しずつ、毎日やっていきましょう。発想を変えるだけなので、そんなにも労力自体も必要ありません。

 たくさん「やるべきこと」よりも「やめること、やらなくてよいこと」を選別することの重要性は、今後の皆さんの体験で実感されると思います。「時は金なり」という諺(ことわざ)がありますが、著者は持っておくことができないので「時は命なり」と思っています。


 次回は、現場改善:「発想の転換(その5) 経営者の立場になって見直す」から解説を続けます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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