技術企業の高収益化: いい経営者になろうと決意しているか

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経営者

 

 「もしもし」と大きな声を出しつつ、スマホを耳に当てて会議室を出ていったのは、A社長でした。場所は昼下がりのA社会議室、検討課題は開発テーマの進捗についてでした。私はコンサルティングのお仕事でA社の開発会議に参加するようになったことから、出席していました。

 開発会議の予定は13時からの2時間程度でした。昼食とお昼休みを終えて眠くなる時間帯ではありますが、私はもちろん、A社社員も開発会議で寝る人はほとんどいませんでした。それは、A社長が出席するからでした。

 会議では、技術者が順番に発表をします。A社では、技術者が一通り発表した後に、社長のコメントを経て軌道修正するかそのまま続けていくのかを決めるといった形式で進めていました。一つのテーマを複数の技術者で担当しています。発表してレビューを受ける技術者だけでなく、関係する技術者も出席しており、重要な会議でした。

 

 冒頭のエピソードは、私が関わって数ケ月後の会議中のことでした。「ピリピリ」という表現が適切だと思います。甲高い携帯電話の着信通知が鳴ったと思ったら、A社長が電話を取って会議室を出ていかれたのです。

 私は常にマナーモードにしていますし、会議中などは着信があってもほとんど出ることはありません。そのため、A社長が電話に出たのは、よほど急ぎの電話に違いないと思い、心配したのを記憶しています。当然、会議は中断し発表者も発表をやめてしまいました。30秒もすると、A社長が戻ってきました。気ぜわしそうにしていたのを記憶しています。

 

1、マイクロマネジメント

 「ごめんごめん、管理部からの連絡だった」と言ってA社長は席に戻りました。社内からの電話です。どうしても取らなければならない電話だったのかな、という疑問は残りましたが、会議は続きました。

 A社長は会議中もイライラした様子で腕を組み、いわゆる「貧乏ゆすり」をしていました。目にはクマができて疲れた様子。発言もどこか刺々しいものがあったと記憶しています。

 一通り会議を終えると、A社長は「みんな頑張ってくれ」という趣旨のコメントを残してドスドスと会議室を後にしました。その後、会議室で私がA社幹部と話をしていた際、A社長の電話のことが話題になったのですが、A社幹部は気まずそうに「すみません、うちの社長が…」と言われました。

 大した話ではないように思われたものの、経験からA社長の行動は研究開発を阻害するように思われたので、話を詳しく聞いてみました。そうすると、A社幹部は「いつもああなんですよ」という口調で話をされました。

 この幹部の話を要約すると、A社長は気が小さく、いつもイライラした様子で社員に接するため、”マイクロマネジメント”になっているとのことだったのです。

 

2、良い経営者像

 今回、この記事でお伝えしたいのは、嘆かわしい上司像ではありません。良い経営者像の話です。

 A社長のことを弁解するわけではないのですが、A社長は心配ばかりだったに違いありません。A社は上場企業のグループ会社で、A社長はいわゆるサラリーマン経営者でした。本社の数字への要求も強いものだったそうです。

 達成しなければならない経営目標は明確です。一方、人員や予算等の使える資源は限られており、経営目標を達成するのは困難。A社幹部によれば「自分がやらなければ」と思うご性格のようでした。A社長は社長なりに神経を擦り減らしていたのだろうと思います。

 A社長の気持ちが分かったのは、お恥ずかしい経験ですが、私自身が仕事に悩んで神経を擦り減らしていた経験があったからでした。起業後の数字のプレッシャー、新規事業立ち上げのリスク、出ていくお金、やめていく部下等々、様々なことを考え過ぎて、人に対して刺々しくなっていたことが私にもあります。

 もちろんその時は体調も悪く、目にはクマができていたことだろうと思います。ただ、主観的には一生懸命仕事をしていたつもりだったのです。

 その時の私は、

  • 「コンサルティングの効果が出なかったらどうしよう」
  • 「クライアントにはどう思われてるんだろう」
  • 「業績が到達しなかったら周囲に何と言われるんだろう」

 等々、心配をしていました。

 今思えば、虫の目ではなく、もう少し鳥の目で見てみて物事を観察すれば、余裕も出たのかも知れませんが、当時そういう余裕はありませんでした。このような経験から、その人にはその人なりの心配があるのだと理解しています。

 

3、いい決意をすることのメリット

 その後、私がそうした心配から解放されたのは、ある決意がきっかけでした。男女差別をなくす時代にふさわしい表現かは分かりませんし、お恥ずかしいですがそのまま書きますと、それは「いい男になってみせる」という決意でした。今日の記事風に書き直すと「いい経営者になってみせる」とでもいえるでしょうか。

 きっかけは祖母の死でした。大好きだった祖母に「いい男になってみせるから見ていてくれ」と思いましたし、そういう思いで今も会社経営しています。

 その決意までは、心配事も多くあまり眠れない日があったり、人に対して刺々しくなったりしていました。しかしその決意以降は明らかによく眠れる様になりました。目のクマもなくなり、人に対してもおおらかに接することができるようになったと思います。

 自分が優秀な経営者だと言うつもりはありませんが、少なくともマイクロマネジメントをせず、目のクマもなくなった...

経営者

 

 「もしもし」と大きな声を出しつつ、スマホを耳に当てて会議室を出ていったのは、A社長でした。場所は昼下がりのA社会議室、検討課題は開発テーマの進捗についてでした。私はコンサルティングのお仕事でA社の開発会議に参加するようになったことから、出席していました。

 開発会議の予定は13時からの2時間程度でした。昼食とお昼休みを終えて眠くなる時間帯ではありますが、私はもちろん、A社社員も開発会議で寝る人はほとんどいませんでした。それは、A社長が出席するからでした。

 会議では、技術者が順番に発表をします。A社では、技術者が一通り発表した後に、社長のコメントを経て軌道修正するかそのまま続けていくのかを決めるといった形式で進めていました。一つのテーマを複数の技術者で担当しています。発表してレビューを受ける技術者だけでなく、関係する技術者も出席しており、重要な会議でした。

 

 冒頭のエピソードは、私が関わって数ケ月後の会議中のことでした。「ピリピリ」という表現が適切だと思います。甲高い携帯電話の着信通知が鳴ったと思ったら、A社長が電話を取って会議室を出ていかれたのです。

 私は常にマナーモードにしていますし、会議中などは着信があってもほとんど出ることはありません。そのため、A社長が電話に出たのは、よほど急ぎの電話に違いないと思い、心配したのを記憶しています。当然、会議は中断し発表者も発表をやめてしまいました。30秒もすると、A社長が戻ってきました。気ぜわしそうにしていたのを記憶しています。

 

1、マイクロマネジメント

 「ごめんごめん、管理部からの連絡だった」と言ってA社長は席に戻りました。社内からの電話です。どうしても取らなければならない電話だったのかな、という疑問は残りましたが、会議は続きました。

 A社長は会議中もイライラした様子で腕を組み、いわゆる「貧乏ゆすり」をしていました。目にはクマができて疲れた様子。発言もどこか刺々しいものがあったと記憶しています。

 一通り会議を終えると、A社長は「みんな頑張ってくれ」という趣旨のコメントを残してドスドスと会議室を後にしました。その後、会議室で私がA社幹部と話をしていた際、A社長の電話のことが話題になったのですが、A社幹部は気まずそうに「すみません、うちの社長が…」と言われました。

 大した話ではないように思われたものの、経験からA社長の行動は研究開発を阻害するように思われたので、話を詳しく聞いてみました。そうすると、A社幹部は「いつもああなんですよ」という口調で話をされました。

 この幹部の話を要約すると、A社長は気が小さく、いつもイライラした様子で社員に接するため、”マイクロマネジメント”になっているとのことだったのです。

 

2、良い経営者像

 今回、この記事でお伝えしたいのは、嘆かわしい上司像ではありません。良い経営者像の話です。

 A社長のことを弁解するわけではないのですが、A社長は心配ばかりだったに違いありません。A社は上場企業のグループ会社で、A社長はいわゆるサラリーマン経営者でした。本社の数字への要求も強いものだったそうです。

 達成しなければならない経営目標は明確です。一方、人員や予算等の使える資源は限られており、経営目標を達成するのは困難。A社幹部によれば「自分がやらなければ」と思うご性格のようでした。A社長は社長なりに神経を擦り減らしていたのだろうと思います。

 A社長の気持ちが分かったのは、お恥ずかしい経験ですが、私自身が仕事に悩んで神経を擦り減らしていた経験があったからでした。起業後の数字のプレッシャー、新規事業立ち上げのリスク、出ていくお金、やめていく部下等々、様々なことを考え過ぎて、人に対して刺々しくなっていたことが私にもあります。

 もちろんその時は体調も悪く、目にはクマができていたことだろうと思います。ただ、主観的には一生懸命仕事をしていたつもりだったのです。

 その時の私は、

  • 「コンサルティングの効果が出なかったらどうしよう」
  • 「クライアントにはどう思われてるんだろう」
  • 「業績が到達しなかったら周囲に何と言われるんだろう」

 等々、心配をしていました。

 今思えば、虫の目ではなく、もう少し鳥の目で見てみて物事を観察すれば、余裕も出たのかも知れませんが、当時そういう余裕はありませんでした。このような経験から、その人にはその人なりの心配があるのだと理解しています。

 

3、いい決意をすることのメリット

 その後、私がそうした心配から解放されたのは、ある決意がきっかけでした。男女差別をなくす時代にふさわしい表現かは分かりませんし、お恥ずかしいですがそのまま書きますと、それは「いい男になってみせる」という決意でした。今日の記事風に書き直すと「いい経営者になってみせる」とでもいえるでしょうか。

 きっかけは祖母の死でした。大好きだった祖母に「いい男になってみせるから見ていてくれ」と思いましたし、そういう思いで今も会社経営しています。

 その決意までは、心配事も多くあまり眠れない日があったり、人に対して刺々しくなったりしていました。しかしその決意以降は明らかによく眠れる様になりました。目のクマもなくなり、人に対してもおおらかに接することができるようになったと思います。

 自分が優秀な経営者だと言うつもりはありませんが、少なくともマイクロマネジメントをせず、目のクマもなくなった記憶があります。

 こういう経験から、私は「いい決意が重要だな」と思うようになりました。というのは、決めると自分が非常に楽になるからです。実際私は、やると決めたことをやり、やり遂げた後の結果のことをクヨクヨ考えなくなりました。

 

 さて、まとめに入ります。この記事を読んでくださっている方にお伝えしたいのは、いい決意をすることのメリットです。

 因果関係は明らかではないものの、決意をした方が企業の業績も出るというもの。私のようなコンサルタントはもちろん、経営者は自分自身が商品なのですから、クヨクヨ考えて刺々しくなるより、決意をして「どーん」と構えておくのが良いに違いありません。

 経営者の方はぜひ「いい経営者になってみせる」と決意することをオススメします。経営者でなければ「いい◯◯になってみせる」です。強い決意です。そうするだけで、虫の目にも鳥の目にもなれ、大事な仕事もみえてきます。大事な仕事に集中できると思います。

 あなたの決意であなたのストレスは激減するだけでなく、道が拓(ひら)けるに違いありません。

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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