技術企業の高収益化 : 未だに競合と比べて商品を企画

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技術マネジメント

◆ 競合比較表は競合との同質化、低収益化を招く悪

 仕事柄、私は多くの知財研修を行っています。研修に先立ち、その狙いや聴講者、習得を目指すスキルなどを依頼企業と打ち合わせています。先日、その打ち合わせの中である会社の現状を聞きました。その会社では「競合比較表に基づいて商品企画を行っており、個々の比較項目で良い性能を出すことが開発の企画において常識になっている」とのことでした。競合比較表は下表のようなイメージです。この表に基づき、「機能YとZ、Wを強化しなければならない」というのがこの会社の商品企画となるそうです。

 「いまだにそんなことをやっているんだな」というのが、この話を聞いた私の率直な感想です。でももしかすると、こうした競合比較表を活用している会社は依然として多いのかもしれません。皆さんの会社ではいかがですか。

 競合比較による商品企画は、技術経営と知財の観点から見ても論理的に間違いです。偉ぶっているわけではありませんが、なぜ間違っているのかを私は説明できます。皆さんは、なぜなのか論理的に説明できますか?。

表. 競合比較表のイメージ

技術マネジメント

1、技術者は論理的に説明できるようになろう

 間違った方法で開発を進めてしまうという問題は、技術者がしばしば直面する問題だと思います。事実、先の会社の技術者がそうです。恐らく、この会社の競合比較表に基づく商品企画の仕組みは、代々受け継がれたものでしょう。そしてその仕組みが機能した時代があったことも事実でしょう。それはそれで受け止めます。しかし間違ったことを延々と続けているとどうなるでしょうか。間違いなく収益性が下がります。儲からなくなるのです。

 会社が儲からなくなって良いはずがありません。代々受け継がれた制度であっても、機能しなくなりつつあるのならば、変えるのは当然です。しかし既存の制度にはどこか正しいような響きもあります。こうしたときに、既存の制度の良い部分は受け止めつつも、問題点をズバリ改善できなければ、技術者は良い仕事ができるはずがありません。

 良い仕事ができるようにやり方を改善していく。このことには賛同してもらえるのではないかと思います。現実問題として実現しようと思えば、技術者が競合比較表に基づく商品企画などの既存制度の問題点を指摘できなければ始まらないのです。

2、なぜ論理的に間違いなのか?

 競合比較に基づく商品企画はなぜ間違いなのでしょうか。まずは、競合比較に基づく商品企画が一見正しい理由を考えてみましょう。

 我々が製造・販売する商品は、市場で競合他社の商品と競争している。競争に勝たないと儲からない。そのため競合品よりも良いものをより安く提供する。これが競争に勝つ秘訣だ。商品をより良いものにするために、競合比較表を利用しているのだ。さあ、これを論理的に批判してみましょう。ポイントは2つあります。

 最初にいえるのは「競争に勝たないと儲からない」ことを前提にしている点が間違いだということです。市場では競争にならないようにする(顧客に比較されないようにする)ことが正解です。なぜならば、比較されれば価格が下がるからです。

 もう一つは、商品をより良いものにするためには、競合比較表は不要だということです。商品は顧客価値を発揮します。顧客価値に独自性があれば顧客は喜びます。独自性がなければ顧客はそれほど喜ばないどころか、より低価格なものを選びます。そして収益性は下がるのです。

  • (1) 市場では競争すると収益性は下がる
  • (2) 独自性がなければ収益性は下がる

 ここまでは経営学の理論で導かれる結論です。当たり前の話です。これら2つが前提にしているのは収益性です。いかがでしょうか。納得してもらえたでしょうか。上記のような説明は、技術者が上司の前で言えなければいけないと思います。競合比較表に基づく商品企画のような従来型の開発を「なあなあ」の雰囲気で続けていてはいけません。

3、知財面で見ても間違い

 話は知財研修の打ち合わせの時に戻ります。「競合比較表に基づく商品企画」の問題点について、私たちは次のようなことを話し合いました。

 【競合比較表に基づく商品企画の問題点】

① 競合比較表に基づく商品企画を続ければ、開発は難しくなる

  • 理由:回避すべき他者の特許があるから。
  • 知財の立場:知財部としては、権利侵害がないことを確認させる業務を用意するのがベストエフォート。これ以上研究開発部門に「ああしろ、こうしろ」とは言えない。

② 知財は取りづらくなる。取れたとしても権利範囲の狭い知財になる

  • 理由:引用文献や公知技術が多いから。
  • 知財の立場:知財部としては、狭い権利でも権利化してあげることが必要。「もっと独自性の高いテーマで開発してみては?」とは言いづらい。

 論理的には明快なので、分かりやすいと思います。そのため、知財的にも間違いであることは理解してもらえると思います。ここで本当に理解...

技術マネジメント

◆ 競合比較表は競合との同質化、低収益化を招く悪

 仕事柄、私は多くの知財研修を行っています。研修に先立ち、その狙いや聴講者、習得を目指すスキルなどを依頼企業と打ち合わせています。先日、その打ち合わせの中である会社の現状を聞きました。その会社では「競合比較表に基づいて商品企画を行っており、個々の比較項目で良い性能を出すことが開発の企画において常識になっている」とのことでした。競合比較表は下表のようなイメージです。この表に基づき、「機能YとZ、Wを強化しなければならない」というのがこの会社の商品企画となるそうです。

 「いまだにそんなことをやっているんだな」というのが、この話を聞いた私の率直な感想です。でももしかすると、こうした競合比較表を活用している会社は依然として多いのかもしれません。皆さんの会社ではいかがですか。

 競合比較による商品企画は、技術経営と知財の観点から見ても論理的に間違いです。偉ぶっているわけではありませんが、なぜ間違っているのかを私は説明できます。皆さんは、なぜなのか論理的に説明できますか?。

表. 競合比較表のイメージ

技術マネジメント

1、技術者は論理的に説明できるようになろう

 間違った方法で開発を進めてしまうという問題は、技術者がしばしば直面する問題だと思います。事実、先の会社の技術者がそうです。恐らく、この会社の競合比較表に基づく商品企画の仕組みは、代々受け継がれたものでしょう。そしてその仕組みが機能した時代があったことも事実でしょう。それはそれで受け止めます。しかし間違ったことを延々と続けているとどうなるでしょうか。間違いなく収益性が下がります。儲からなくなるのです。

 会社が儲からなくなって良いはずがありません。代々受け継がれた制度であっても、機能しなくなりつつあるのならば、変えるのは当然です。しかし既存の制度にはどこか正しいような響きもあります。こうしたときに、既存の制度の良い部分は受け止めつつも、問題点をズバリ改善できなければ、技術者は良い仕事ができるはずがありません。

 良い仕事ができるようにやり方を改善していく。このことには賛同してもらえるのではないかと思います。現実問題として実現しようと思えば、技術者が競合比較表に基づく商品企画などの既存制度の問題点を指摘できなければ始まらないのです。

2、なぜ論理的に間違いなのか?

 競合比較に基づく商品企画はなぜ間違いなのでしょうか。まずは、競合比較に基づく商品企画が一見正しい理由を考えてみましょう。

 我々が製造・販売する商品は、市場で競合他社の商品と競争している。競争に勝たないと儲からない。そのため競合品よりも良いものをより安く提供する。これが競争に勝つ秘訣だ。商品をより良いものにするために、競合比較表を利用しているのだ。さあ、これを論理的に批判してみましょう。ポイントは2つあります。

 最初にいえるのは「競争に勝たないと儲からない」ことを前提にしている点が間違いだということです。市場では競争にならないようにする(顧客に比較されないようにする)ことが正解です。なぜならば、比較されれば価格が下がるからです。

 もう一つは、商品をより良いものにするためには、競合比較表は不要だということです。商品は顧客価値を発揮します。顧客価値に独自性があれば顧客は喜びます。独自性がなければ顧客はそれほど喜ばないどころか、より低価格なものを選びます。そして収益性は下がるのです。

  • (1) 市場では競争すると収益性は下がる
  • (2) 独自性がなければ収益性は下がる

 ここまでは経営学の理論で導かれる結論です。当たり前の話です。これら2つが前提にしているのは収益性です。いかがでしょうか。納得してもらえたでしょうか。上記のような説明は、技術者が上司の前で言えなければいけないと思います。競合比較表に基づく商品企画のような従来型の開発を「なあなあ」の雰囲気で続けていてはいけません。

3、知財面で見ても間違い

 話は知財研修の打ち合わせの時に戻ります。「競合比較表に基づく商品企画」の問題点について、私たちは次のようなことを話し合いました。

 【競合比較表に基づく商品企画の問題点】

① 競合比較表に基づく商品企画を続ければ、開発は難しくなる

  • 理由:回避すべき他者の特許があるから。
  • 知財の立場:知財部としては、権利侵害がないことを確認させる業務を用意するのがベストエフォート。これ以上研究開発部門に「ああしろ、こうしろ」とは言えない。

② 知財は取りづらくなる。取れたとしても権利範囲の狭い知財になる

  • 理由:引用文献や公知技術が多いから。
  • 知財の立場:知財部としては、狭い権利でも権利化してあげることが必要。「もっと独自性の高いテーマで開発してみては?」とは言いづらい。

 論理的には明快なので、分かりやすいと思います。そのため、知財的にも間違いであることは理解してもらえると思います。ここで本当に理解してほしいのは、知財部門からは「言いづらい」という点です。知財部門は知財の側面からの間違いを指摘することはできると思うのですが、それ以上は研究開発部門に「ああしろこうしろ」とはいえないのです。なぜなら独自性の高いテーマは設定が難しいからです。またリスクも伴うため、支援部門である知財からは言いにくいのです。

 そのため競合比較に基づく商品企画を行っている技術者の皆さんは、知財部からは間違いであるとは「言ってもらえない」と思って下さい。既に競合比較に基づく商品企画をしていれば、それを継続していく方が圧倒的に楽でしょう。しかし上記の通り、収益性は下がりますし、知財的にも大変になります。

 良い仕事をするために、当然のことは論理的に知っておく必要があると思いませんか。特に、若手技術者の皆さんには説明できるようになってもらいたいと思います。技術経営と知財は共に収益性を高めるために必要な知識です。学問のための学問ではなく、良い仕事をするための学問、実学です。多くの技術者は技術経営を身に付ける必要があるというのが、私の一貫した提案です。

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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