デジタルトランスフォーメーションとは データ分析講座(その85)

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データ分析

◆ あなたの会社のセールスアナリティクス、現状とこれからを知るためにすべきこと

 データ分析がマーケティングや営業でどこまで活用が進んでいるのか正確に把握出来ていない企業も多いのではないでしょうか。マーケティングや営業などでデータを全く活用しないことはないと思います。マーケティングであれば、引合件数というデータを眺めたり、白書やシンクタンクレポートから読み取れる市場動向、さらに市場調査を行い認知や購入経験などの市場浸透状況をデータとして取得する企業もあるでしょう。営業であれば、担当顧客数や受注件数や受注金額などのデータはかなり身近にあると思います。

 ある程度の規模の企業になると、マーケターや営業パーソンの中にデータ分析に興味を持っている人や、データ分析に強い人もいたりします。しかし多くの場合、その個人だけのスキルで終わってしまい、社内共有されていないようです。まずはあなたの会社のセールスアナリティクスの活用レベルの現在を知り、その上で次の手を考えると少しずつレベルを上げながらデータドリブンな企業へと変貌するのではないでしょうか。これが、デジタルトランスフォーメーションです。

 今回は「あなたの会社のセールスアナリティクス、現状とこれからを知るためにすべきこと」についてお話しいたします。

1. データ分析:2つの代表的なアプローチ

 データ分析の活用レベルを上げる2つの代表的なアプローチがあります。

 一つは約10年前の書籍になりますが、ジム・デイビスらによる「分析力のマネジメント」(2007年・ダイヤモンド社)で紹介されている「情報価値を最大化するための5段階」です。

  • レベル1:個人レベル
  • レベル2:部門レベル
  • レベル3:全社レベル
  • レベル4:最適化レベル
  • レベル5:革新レベル

 もう一つは、ビッグデータブームとともに注目を浴びたトーマス・ダベンポートらによるの「分析力を駆使する企業」(2011年・日経BP社)で紹介されている「分析力を駆使する発展の5段階」です。

  • 段階1:分析力に劣る
  • 段階2:分析力の活用が限定的
  • 段階3:分析力の組織的な強化に取り組む
  • 段階4:分析力を備えている
  • 段階5:分析力を武器にしている

 この2つのアプローチは似たような部分もありますが、私はよく2つのアプローチを掛け合わせた表を作り、まず現状で上記二つのレベルに自社のセールスアナリティクスがどの位置にあるかを当てはめ、それに対し理想をどこに置くか考え、その理想に向けた現実的な短期目標と当面の中長期目標をどこに設定したらよいか、などを考えることがあります。

2. データ分析の活用レベルを上げるにはカスタマイズしよう

 2つのアプローチの掛け合わせでも、どちらか一つだけでも構いません。重要なのは自社にあったアプローチを選択し、各レベルは自社にあうように作り変えることです。この2つのアプローチは汎用的なものです。実際には、具体的な組織名や個人名、具体的なデータや成果を記載します。

 結果的に、2つのアプローチと全く同じになっても構いません。自社に当てはめて考えることが重要です。そして、データ分析の活用の輪を小さく始め大きく波及させる「波及戦略」を構想しましょう。

3. セールスアナリティクスの波及戦略

 セールスアナリティクスでは、マーケティングや営業などのためのデータ分析は小さく始め大きく波及させると、上手くいきやすいでしょう。パワープレーでいきなり全社展開という手もありますが、堅実にいくなら前者の波及戦略をお勧めします。この「波及戦略」を考える時、組織の横展開による波及もあればデータ分析のテーマとなる課題を増やすことによる波及もあります。

4. データ分析:幾つかの事例

 よくある事例を3つ紹介します。

  • 事例1:データを集めている意識のなかった、某大手食品メーカー
  • 事例2:データ基盤は整えたが、活用できていない某大手運輸企業
  • 事例3:データサイエンス部署を作ったけど、事業貢献できていない某大手小売りチェーン

(1) 事例1:データを集めている意識のなかった、某大手食品メーカー

 この企業は、もともとデータ分析への関心や意識がほとんどありませんでした。しかし世間で「これからはビッグデータやAI、デジタルトランスフォーメーションだ」と騒がれたため、経営陣が「我が社でも取り組もう!」となりました。データ分析の関心が低いということは、その分析対象であるデータ収集の意識も当然ながら低いです。自社にどのようなデータがあるのかも、あまり把握していませんでした。

 現状は、「レベル1:個人レベル」かつ「段階2:分析力の活用が限定的」です。

 このようにデータ分析の意識は非常に低かったのですが1人だけ意識の高い社員がいたことから、SPSSという有償のデータ分析ソフトが1ライセンスだけ購入され、さらにその方のPCにはRやPythonというフリーのデータ分析ツールがインストールされました。とりあえずの短期目標として「レベル1:個人レベル」を「レベル2:部門レベル」に引き上げようという事になりました。

(2) 事例2:データ基盤は整えたけど、活用できていない某大手運輸企業

 この企業は、競合他社がデータ分析を活用した成功事例を目にするに当たり、自社でも取り入れようということで、DMP(データマネジメントプラットフォーム)の構築と、全社的なBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの導入を実施しました。つまりデータ基盤とそのための分析基盤がすでにある状態でした。

 幸いにも今までパワーポイントとExcelで作っていた定期レポートやグラフ類の作業が大幅に削減され、単に削減されただけでなく時間も大幅に短縮されるようになりました。そして定期レポートやグラフ類などに対する解釈に割く時間が増えました。

 問題は、その先のデータ分析のビジネス活用が思うように進んでいないことでした。ITインフラを整えたけど、思ったほど活用できていないということです。現状は「レベル3:全社レベル」かつ「段階2:分析力の活用が限定的」でした。自社内で人財を探しましたが、不幸にもデータ分析に精通した人財は皆無でした。とりあえずの短期目標として「段階3:分析力の組織的な強化に取り組む」まで引き上げようという事になりました。まずは簡単な成功事例作りと、成功事例を利用した社内教育、そして即戦力人財を数人中途採用することになりました。

(3) 事例3:データサイエンス部署を作ったけど、事業貢献できていない某大手小...

データ分析

◆ あなたの会社のセールスアナリティクス、現状とこれからを知るためにすべきこと

 データ分析がマーケティングや営業でどこまで活用が進んでいるのか正確に把握出来ていない企業も多いのではないでしょうか。マーケティングや営業などでデータを全く活用しないことはないと思います。マーケティングであれば、引合件数というデータを眺めたり、白書やシンクタンクレポートから読み取れる市場動向、さらに市場調査を行い認知や購入経験などの市場浸透状況をデータとして取得する企業もあるでしょう。営業であれば、担当顧客数や受注件数や受注金額などのデータはかなり身近にあると思います。

 ある程度の規模の企業になると、マーケターや営業パーソンの中にデータ分析に興味を持っている人や、データ分析に強い人もいたりします。しかし多くの場合、その個人だけのスキルで終わってしまい、社内共有されていないようです。まずはあなたの会社のセールスアナリティクスの活用レベルの現在を知り、その上で次の手を考えると少しずつレベルを上げながらデータドリブンな企業へと変貌するのではないでしょうか。これが、デジタルトランスフォーメーションです。

 今回は「あなたの会社のセールスアナリティクス、現状とこれからを知るためにすべきこと」についてお話しいたします。

1. データ分析:2つの代表的なアプローチ

 データ分析の活用レベルを上げる2つの代表的なアプローチがあります。

 一つは約10年前の書籍になりますが、ジム・デイビスらによる「分析力のマネジメント」(2007年・ダイヤモンド社)で紹介されている「情報価値を最大化するための5段階」です。

  • レベル1:個人レベル
  • レベル2:部門レベル
  • レベル3:全社レベル
  • レベル4:最適化レベル
  • レベル5:革新レベル

 もう一つは、ビッグデータブームとともに注目を浴びたトーマス・ダベンポートらによるの「分析力を駆使する企業」(2011年・日経BP社)で紹介されている「分析力を駆使する発展の5段階」です。

  • 段階1:分析力に劣る
  • 段階2:分析力の活用が限定的
  • 段階3:分析力の組織的な強化に取り組む
  • 段階4:分析力を備えている
  • 段階5:分析力を武器にしている

 この2つのアプローチは似たような部分もありますが、私はよく2つのアプローチを掛け合わせた表を作り、まず現状で上記二つのレベルに自社のセールスアナリティクスがどの位置にあるかを当てはめ、それに対し理想をどこに置くか考え、その理想に向けた現実的な短期目標と当面の中長期目標をどこに設定したらよいか、などを考えることがあります。

2. データ分析の活用レベルを上げるにはカスタマイズしよう

 2つのアプローチの掛け合わせでも、どちらか一つだけでも構いません。重要なのは自社にあったアプローチを選択し、各レベルは自社にあうように作り変えることです。この2つのアプローチは汎用的なものです。実際には、具体的な組織名や個人名、具体的なデータや成果を記載します。

 結果的に、2つのアプローチと全く同じになっても構いません。自社に当てはめて考えることが重要です。そして、データ分析の活用の輪を小さく始め大きく波及させる「波及戦略」を構想しましょう。

3. セールスアナリティクスの波及戦略

 セールスアナリティクスでは、マーケティングや営業などのためのデータ分析は小さく始め大きく波及させると、上手くいきやすいでしょう。パワープレーでいきなり全社展開という手もありますが、堅実にいくなら前者の波及戦略をお勧めします。この「波及戦略」を考える時、組織の横展開による波及もあればデータ分析のテーマとなる課題を増やすことによる波及もあります。

4. データ分析:幾つかの事例

 よくある事例を3つ紹介します。

  • 事例1:データを集めている意識のなかった、某大手食品メーカー
  • 事例2:データ基盤は整えたが、活用できていない某大手運輸企業
  • 事例3:データサイエンス部署を作ったけど、事業貢献できていない某大手小売りチェーン

(1) 事例1:データを集めている意識のなかった、某大手食品メーカー

 この企業は、もともとデータ分析への関心や意識がほとんどありませんでした。しかし世間で「これからはビッグデータやAI、デジタルトランスフォーメーションだ」と騒がれたため、経営陣が「我が社でも取り組もう!」となりました。データ分析の関心が低いということは、その分析対象であるデータ収集の意識も当然ながら低いです。自社にどのようなデータがあるのかも、あまり把握していませんでした。

 現状は、「レベル1:個人レベル」かつ「段階2:分析力の活用が限定的」です。

 このようにデータ分析の意識は非常に低かったのですが1人だけ意識の高い社員がいたことから、SPSSという有償のデータ分析ソフトが1ライセンスだけ購入され、さらにその方のPCにはRやPythonというフリーのデータ分析ツールがインストールされました。とりあえずの短期目標として「レベル1:個人レベル」を「レベル2:部門レベル」に引き上げようという事になりました。

(2) 事例2:データ基盤は整えたけど、活用できていない某大手運輸企業

 この企業は、競合他社がデータ分析を活用した成功事例を目にするに当たり、自社でも取り入れようということで、DMP(データマネジメントプラットフォーム)の構築と、全社的なBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの導入を実施しました。つまりデータ基盤とそのための分析基盤がすでにある状態でした。

 幸いにも今までパワーポイントとExcelで作っていた定期レポートやグラフ類の作業が大幅に削減され、単に削減されただけでなく時間も大幅に短縮されるようになりました。そして定期レポートやグラフ類などに対する解釈に割く時間が増えました。

 問題は、その先のデータ分析のビジネス活用が思うように進んでいないことでした。ITインフラを整えたけど、思ったほど活用できていないということです。現状は「レベル3:全社レベル」かつ「段階2:分析力の活用が限定的」でした。自社内で人財を探しましたが、不幸にもデータ分析に精通した人財は皆無でした。とりあえずの短期目標として「段階3:分析力の組織的な強化に取り組む」まで引き上げようという事になりました。まずは簡単な成功事例作りと、成功事例を利用した社内教育、そして即戦力人財を数人中途採用することになりました。

(3) 事例3:データサイエンス部署を作ったけど、事業貢献できていない某大手小売りチェーン

 即戦力人財の中途採用と社内公募、今までの職歴を参考した異動により、データサイエンス部署を設置しました。しかし新部署設置後も、なかなか事業貢献できず悩んでいました。現状は「レベル2:部門レベル」かつ「段階1:分析力に劣る」です。

 経済新聞に掲載されるほど華々しくスタートしたのですが、人財は揃っていても成果出ずの状態でした。最初からインパクトの大きな成果を狙いに行ったのが良くなかったようです。とりあえずの短期目標として「段階2:分析力の活用が限定的」に引き上げようという方針になりました。まずは簡単な成功事例を10以上作り、その事例を社内で発表する場と時間を作り、データ分析を活用する部署やその協力人財などを募ろうということになりました。

5. デジタルトランスフォーメーション

 今回は「あなたの会社のセールスアナリティクス、現状とこれからを知るためにすべきこと」についてお話しいたしました。少しずつレベルを上げながらデータドリブンな企業へと変貌するために、2つのアプローチを紹介しました。あなたの会社のセールスアナリティクスの活用レベルはどこでしょうか。

 あなたの会社のセールスアナリティクス活用レベルの理想(10年後)はどこでしょうか。理想は理想です。その理想に近づくための現実的な短期目標(1年後)はどこでしょうか。その先の中長期目標(3年後と5年後)はどこでしょうか。このあたりが整理されると、少しずつレベルを上げながらデータドリブンな企業へと変貌するのではないでしょうか。デジタルトランスフォーメーションです。

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

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