『価値づくり』の研究開発マネジメント (その11)

更新日

投稿日

 
オープンイノベーション
 
 今回は、オープンイノベーションを経済学のキーワードから「競争原理」について、解説します。
 

1.競争原理とは

 
 競争原理の意味を調べると、「個人または集団が、必要とするものを獲得するために他者と競い合い、勝者が獲得できるとする、優勝劣敗の競争を受容する考え方。誰でも平等に競争に参加できる自由競争を市場や経済活動などの基本とする考え方で、資本主義の基本原理の一つとされる。」(デジタル大辞泉)という説明があります。
 
 つまり、競争原理に基づき生産した製品やサービスは、最良のアウトプットとなるという原理です。もちろん社会にとって最良のものかは、議論が分かれるところかもしれませんが、競争原理は基本的には、社会にとっては良いものとして考えることができるでしょう。
 

2.既存の自社の「一連の機能」ではベストな製品を実現することは難しい

 
 通常市場では企業は、表面的には製品というレベルで「競争原理」に基づき競争をしているわけですが、実際はそれを実現する自社内のバリューチェーン、さらには、その前後のサプライチェーン全体を構成する自社の「一連の機能」で、競争していることになります。
 
 しかし、自社の「一連の機能」すべてで他社に秀でるということは、現実には(非オープンイノベーション環境においては)なかなか難しいものです。例えば、自社のこの技術は世界でベストだが、生産は他社にもっと強いところが沢山あるといったように。したがって、ほとんど全ての場合、自社の「一連の機能」の中には他社に比べ弱い機能が包含されていて、本来的にはベストな製品を生み出しているとは言えません。
 

3.オープンイノベーションでベストな製品が実現できる

 
 オープンイノベーション(協創)で世界中から「競争原理」に基づき、企業同志の切磋琢磨により実現されたベストな「単一機能」だけを集め、それにより「一連の機能」を実現したらどうでしょうか。
 
 それは「一連の最強機能」であり、アウトプットのレベルはずっと高くなり、理論的には現状では世界ベストな製品を実現することができることになります。ただし、オープンイノベーションには、一方で「取引コスト」という追加コストを発生します。
 

4、「協創」の前には「競争」がある:自社は単一機能の競争で勝たなければならない

 
 ここまでの解説からわかるように、オープンイノベーションに参加する前提には、一連のバリューチェーンを構成するいずれかの機能において、世界でベストである必要があるわけです。つまりオープンイノベーションにおいては、常に「協創」の前には「競争」があるのです。オープンイノベーションは、決して仲良しクラブでは実現できません。むしろ、自社が「強み」と...
 
オープンイノベーション
 
 今回は、オープンイノベーションを経済学のキーワードから「競争原理」について、解説します。
 

1.競争原理とは

 
 競争原理の意味を調べると、「個人または集団が、必要とするものを獲得するために他者と競い合い、勝者が獲得できるとする、優勝劣敗の競争を受容する考え方。誰でも平等に競争に参加できる自由競争を市場や経済活動などの基本とする考え方で、資本主義の基本原理の一つとされる。」(デジタル大辞泉)という説明があります。
 
 つまり、競争原理に基づき生産した製品やサービスは、最良のアウトプットとなるという原理です。もちろん社会にとって最良のものかは、議論が分かれるところかもしれませんが、競争原理は基本的には、社会にとっては良いものとして考えることができるでしょう。
 

2.既存の自社の「一連の機能」ではベストな製品を実現することは難しい

 
 通常市場では企業は、表面的には製品というレベルで「競争原理」に基づき競争をしているわけですが、実際はそれを実現する自社内のバリューチェーン、さらには、その前後のサプライチェーン全体を構成する自社の「一連の機能」で、競争していることになります。
 
 しかし、自社の「一連の機能」すべてで他社に秀でるということは、現実には(非オープンイノベーション環境においては)なかなか難しいものです。例えば、自社のこの技術は世界でベストだが、生産は他社にもっと強いところが沢山あるといったように。したがって、ほとんど全ての場合、自社の「一連の機能」の中には他社に比べ弱い機能が包含されていて、本来的にはベストな製品を生み出しているとは言えません。
 

3.オープンイノベーションでベストな製品が実現できる

 
 オープンイノベーション(協創)で世界中から「競争原理」に基づき、企業同志の切磋琢磨により実現されたベストな「単一機能」だけを集め、それにより「一連の機能」を実現したらどうでしょうか。
 
 それは「一連の最強機能」であり、アウトプットのレベルはずっと高くなり、理論的には現状では世界ベストな製品を実現することができることになります。ただし、オープンイノベーションには、一方で「取引コスト」という追加コストを発生します。
 

4、「協創」の前には「競争」がある:自社は単一機能の競争で勝たなければならない

 
 ここまでの解説からわかるように、オープンイノベーションに参加する前提には、一連のバリューチェーンを構成するいずれかの機能において、世界でベストである必要があるわけです。つまりオープンイノベーションにおいては、常に「協創」の前には「競争」があるのです。オープンイノベーションは、決して仲良しクラブでは実現できません。むしろ、自社が「強み」と決めた機能では、従来の製品レベルでの競争以上の厳しい競争を戦っていかなければなりません。
 
 この点を見誤ると、オープンイノベーションの果実を得ることは絶対にできません。 この点について、多くのオープンイノベーションを推進している日本企業が、その本質を理解していないように思えます。つまり、単に、「自社の既存の機能を前提として」、他社や大学をうまく利用しようという姿勢では、オープンイノベーションはうまくはいかないということです。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
スタートアップ知財支援とは 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その67)

1. 特許庁主催の知財活動表彰ニュース  2020年3月19日、特許庁のスタートアップの支援やイベントの開催を行う知財コミュニティポータルサイト「I...

1. 特許庁主催の知財活動表彰ニュース  2020年3月19日、特許庁のスタートアップの支援やイベントの開催を行う知財コミュニティポータルサイト「I...


リーン製品開発の全体像 – イベント駆動型のプロセス

   前回の「リーン製品開発※の基本原則(その2)」に続けて解説します。 ◆ イベント駆動LPDプロセス  下図は、イベント駆動LPD (...

   前回の「リーン製品開発※の基本原則(その2)」に続けて解説します。 ◆ イベント駆動LPDプロセス  下図は、イベント駆動LPD (...


アウトプット量を増やす効果とは 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その73)

   2020年は新コロナ騒動で、例年以上に何かと閉塞感を感じます。日常当たり前であった出張会議はほぼゼロへ、会議はオンラインへ移行し、こ...

   2020年は新コロナ騒動で、例年以上に何かと閉塞感を感じます。日常当たり前であった出張会議はほぼゼロへ、会議はオンラインへ移行し、こ...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
品質の仕組みとは1 プロジェクト管理の仕組み (その27)

 製品開発を行っている組織において、設計・製造の仕組みを構築したり見直したりするというとき、品質向上に貢献することが何らかの形でゴールのひとつとなっている...

 製品開発を行っている組織において、設計・製造の仕組みを構築したり見直したりするというとき、品質向上に貢献することが何らかの形でゴールのひとつとなっている...


システム設計8 プロジェクト管理の仕組み (その40)

 前回のシステム設計7に続いて解説します。    システム要件の一つひとつについて、サブシステム構成における振る舞いを記述し、各々のサブシス...

 前回のシステム設計7に続いて解説します。    システム要件の一つひとつについて、サブシステム構成における振る舞いを記述し、各々のサブシス...


R&Dの価値創造力を高めるシンプルツール、iMapとは、

 技術経営とは、「企業の経営資源である技術を経営戦略の中核に位置づけ、顧客価値の創造へ向けて、その獲得・強化・活用を戦略的に行うことにより、継続的な企業の...

 技術経営とは、「企業の経営資源である技術を経営戦略の中核に位置づけ、顧客価値の創造へ向けて、その獲得・強化・活用を戦略的に行うことにより、継続的な企業の...