レジリエンスを高める技術(その6)

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【レジリエンスとは 連載へのリンク】

1、6つのレジリエンス・コアコンピテンシー

2、自己認識(Self-awareness)

3、セルフコントロール(Self-regulation)

4、楽観性(Optimism)

5、心理的柔軟性(Mental Agility)

6、徳性の強み(Character Strengths)

7、人とのつながり(Connection)

 

 レジリエンスを高める技術、前回の心理的柔軟性に続いて、今回は、徳性の強み(Character Strengths)です。
 

1.徳性の強み

 
 気持ちが落ち込んだ状態や逆境から抜け出すためのレジリエンスを高める6つの力の5つ目は「徳性の強み(Character Strengths)」です。徳性の強みとは、人間には時代や民族、国などによって変わらない普遍的な「徳」が 24 個存在し、人によって強みとなる徳が違うので、自分にとって強みとなる徳を知ることで、仕事や日常生活を豊かなものにできるというものです。
 
 この 24 の「徳性の強み」は VIA(Values in Action)と呼ばれており、ペンシルベニア大学のクリストファー・ピーターソンが、全世界の様々な時代の宗教、哲学、文化などを調査して、人間として普遍的な徳を 24 に分類したもので、ポジティブ心理学の基本となる概念です(図1)
 
        レジリエンス
図1. 徳性の強み(VIA)
 
 ペンシルベニア大学のホームページで自己診断することができます。アカウント作成する必要があったり、回答に 20 - 30 分程度かかる面倒さはありますが、学術的な研究実績にもとづいたものであり、日本語で表示できますから診断してみてください。
 
 Authentic Happiness | 強みに関する調査票(VIA)
 
 
 自分の強みはわかっていると思うかもしれませんが、自分の強みを知っている人は3割程度しかいないともいわれています。実際、図1を見て自分の強みを5つ選ぶことができる人は少ないはずです。まずは、客観的に自分の強みを知るために VIA アセスメントをやってみることをお勧めします。
 

2.強みの活用が成果を最大化する

 
 いくつかの研究によれば、自分の「強み」を活かすと図2に示しているような効果があることがわかっています。
 
      レジリエンス
図2. 強みを活かしたときの効果
 
 図2を見るだけでも「強み」がレジリエンスに関係していることがよくわかると思いますが、実際に「強み」をレジリエンスに活かすには自分の「強み」を行動につなげることが重要になります。日常的に次のことを気をつけておくことで行動につなげることが容易になります。
 
 ◆自分の上位5つの強みを理解し、試練や目標に立ち向かう際に活用できる
 ◆自分の強み、才能、能力を信頼できる
 ◆自分は強い人間だという姿勢がとれる
 
 自分の強みを知っている人は3割程度といいましたが、強みを活かしている人になるとその割合はさらに少なくなります。会社や学校では「レベルアップのためにはまずは弱点克服」というアドバイスや指導になりがちなことや、個人でもまずは弱点をどうにかしなくてはと思う人が多いことが原因で、「強み」活用の障害となっているからです。この状況を変えるには、強みを人の成長やパフォーマンス向上に活かすことが大切だということを皆の共通認識にすることが大切です。
 
 ある2万人の従業員を対象にした研究によれば、「強み」の活用にフォーカスした場合は従業員のパフォーマンスが平均 36.4% 向上し、「弱み」の克服にフォーカスした場合は 26.8% の向上にとどまったということです。弱みを克服するアプローチでは平均的なレベルまでしか狙えないのです。
 

3.「強み」の使いすぎには注意

 
 ただ、「強み」活用の具体的な方法は、持っている「強み」やその組み合わせ、さらには、置かれている状況、経験、性格、人間関係などによって変わります。一方、強みを活かしているときには脳に共通の特徴が現れることもわかっています。安らぎが生まれ、気持ちよく、自然で、自分らしいという感覚で、そのためには、日常的に次のようなことを心がけるとよいと言われています。
 
◆「強み」を活かすことを自分に言い聞かせる
◆「強み」を活かす状況を探求する
◆「強み」を活用したと思える時には、そんな自分をほめると同時に、活用していたときの感情
 を再認識(再現)する
◆「強み」を活かしてうまくいったときの意図・動機を深掘りする
◆「強み」を活かしてうまくいかなったときの意図・動機を深掘りする
◆他者の振る舞いを観察することにより自分の行動がどのように理解されているのか確認する
 
 「強み」の活用で気をつけなければならないのが「使いすぎ」です。「強み」を使うのは自分にとって自然なことなので、自分が気づかないうちに使いすぎてしまう傾向があります。とくに、ストレス状態や怠惰な状態では「強み」を過度に使う傾向があります。そして、問題なのが「強み」を使いすぎると他人の目には「弱み」に映るということです。
 
 たとえば、柔軟性が「強み」の場合、適度に「強み」を使っているときは、周りからはその柔軟な姿勢は高く評価されるでしょう。しかし、余裕がない状況になるとつい過剰に柔軟性を出してしまい、他の人には一貫性のない行動で、右往左往しているだけに見えてしまうことがあります。同じように、勇敢さが「強み」であっても、使いすぎると他人には自己中心的で傲慢な態度と思われてしまいます。
 
      レジリエンス
図3.「強み」活用の連続性
 
 これは図3に示すように、「強み」を使う程度には連続性があり、使いすぎたり使わ...

【レジリエンスとは 連載へのリンク】

1、6つのレジリエンス・コアコンピテンシー

2、自己認識(Self-awareness)

3、セルフコントロール(Self-regulation)

4、楽観性(Optimism)

5、心理的柔軟性(Mental Agility)

6、徳性の強み(Character Strengths)

7、人とのつながり(Connection)

 

 レジリエンスを高める技術、前回の心理的柔軟性に続いて、今回は、徳性の強み(Character Strengths)です。
 

1.徳性の強み

 
 気持ちが落ち込んだ状態や逆境から抜け出すためのレジリエンスを高める6つの力の5つ目は「徳性の強み(Character Strengths)」です。徳性の強みとは、人間には時代や民族、国などによって変わらない普遍的な「徳」が 24 個存在し、人によって強みとなる徳が違うので、自分にとって強みとなる徳を知ることで、仕事や日常生活を豊かなものにできるというものです。
 
 この 24 の「徳性の強み」は VIA(Values in Action)と呼ばれており、ペンシルベニア大学のクリストファー・ピーターソンが、全世界の様々な時代の宗教、哲学、文化などを調査して、人間として普遍的な徳を 24 に分類したもので、ポジティブ心理学の基本となる概念です(図1)
 
        レジリエンス
図1. 徳性の強み(VIA)
 
 ペンシルベニア大学のホームページで自己診断することができます。アカウント作成する必要があったり、回答に 20 - 30 分程度かかる面倒さはありますが、学術的な研究実績にもとづいたものであり、日本語で表示できますから診断してみてください。
 
 Authentic Happiness | 強みに関する調査票(VIA)
 <https://www.authentichappiness.sas.upenn.edu/ja/user/login?destination=node/930>
 
 自分の強みはわかっていると思うかもしれませんが、自分の強みを知っている人は3割程度しかいないともいわれています。実際、図1を見て自分の強みを5つ選ぶことができる人は少ないはずです。まずは、客観的に自分の強みを知るために VIA アセスメントをやってみることをお勧めします。
 

2.強みの活用が成果を最大化する

 
 いくつかの研究によれば、自分の「強み」を活かすと図2に示しているような効果があることがわかっています。
 
      レジリエンス
図2. 強みを活かしたときの効果
 
 図2を見るだけでも「強み」がレジリエンスに関係していることがよくわかると思いますが、実際に「強み」をレジリエンスに活かすには自分の「強み」を行動につなげることが重要になります。日常的に次のことを気をつけておくことで行動につなげることが容易になります。
 
 ◆自分の上位5つの強みを理解し、試練や目標に立ち向かう際に活用できる
 ◆自分の強み、才能、能力を信頼できる
 ◆自分は強い人間だという姿勢がとれる
 
 自分の強みを知っている人は3割程度といいましたが、強みを活かしている人になるとその割合はさらに少なくなります。会社や学校では「レベルアップのためにはまずは弱点克服」というアドバイスや指導になりがちなことや、個人でもまずは弱点をどうにかしなくてはと思う人が多いことが原因で、「強み」活用の障害となっているからです。この状況を変えるには、強みを人の成長やパフォーマンス向上に活かすことが大切だということを皆の共通認識にすることが大切です。
 
 ある2万人の従業員を対象にした研究によれば、「強み」の活用にフォーカスした場合は従業員のパフォーマンスが平均 36.4% 向上し、「弱み」の克服にフォーカスした場合は 26.8% の向上にとどまったということです。弱みを克服するアプローチでは平均的なレベルまでしか狙えないのです。
 

3.「強み」の使いすぎには注意

 
 ただ、「強み」活用の具体的な方法は、持っている「強み」やその組み合わせ、さらには、置かれている状況、経験、性格、人間関係などによって変わります。一方、強みを活かしているときには脳に共通の特徴が現れることもわかっています。安らぎが生まれ、気持ちよく、自然で、自分らしいという感覚で、そのためには、日常的に次のようなことを心がけるとよいと言われています。
 
◆「強み」を活かすことを自分に言い聞かせる
◆「強み」を活かす状況を探求する
◆「強み」を活用したと思える時には、そんな自分をほめると同時に、活用していたときの感情
 を再認識(再現)する
◆「強み」を活かしてうまくいったときの意図・動機を深掘りする
◆「強み」を活かしてうまくいかなったときの意図・動機を深掘りする
◆他者の振る舞いを観察することにより自分の行動がどのように理解されているのか確認する
 
 「強み」の活用で気をつけなければならないのが「使いすぎ」です。「強み」を使うのは自分にとって自然なことなので、自分が気づかないうちに使いすぎてしまう傾向があります。とくに、ストレス状態や怠惰な状態では「強み」を過度に使う傾向があります。そして、問題なのが「強み」を使いすぎると他人の目には「弱み」に映るということです。
 
 たとえば、柔軟性が「強み」の場合、適度に「強み」を使っているときは、周りからはその柔軟な姿勢は高く評価されるでしょう。しかし、余裕がない状況になるとつい過剰に柔軟性を出してしまい、他の人には一貫性のない行動で、右往左往しているだけに見えてしまうことがあります。同じように、勇敢さが「強み」であっても、使いすぎると他人には自己中心的で傲慢な態度と思われてしまいます。
 
      レジリエンス
図3.「強み」活用の連続性
 
 これは図3に示すように、「強み」を使う程度には連続性があり、使いすぎたり使わなかったりすることで行動が変化するという性質があるからです。「強み」を活用しようとするとその使用度合いはどんどん拡大して使いすぎの状態になってしまい、使いすぎだからと抑制しようとするとどんどん使わなくなり、今度は「強み」を活かせないことになってしまうのです。常に周囲の反応を見て「強み」の使用が適度かどうかを意識することが大切です。そして、使いすぎていると感じたときは、他の「強み」を使うことでバランスをとるようにしましょう。
 
 苦しい状況に置かれているときに必要なのは、その状況から抜け出す行動を起こすことです。そのためには、「何らかの行動を起こさなければこの状況は変わらない」「自分には何か行動を起こすことができるんだ」という思いを持つ必要があります。このスキルは、自分の強みを知って、日頃からその活用を心がけることで高めることができるのです。ただし、自分の強みを活かすことを意識する一方で、ひとつの強みばかりを使いすぎないように、自分なりの危険信号を意識しておくことも忘れないでほしいと思います。
 
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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