ものづくり力を育む「魔改造」演習(トヨタ東京自動車大学校)

 

トヨタ東京自動車大学校スマートモビリティ学科棟

 

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ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けしています。今回はトヨタ自動車系列の自動車整備エンジニア養成機関であるトヨタ東京自動車大学校での取り組みを紹介します。

 

◉この記事で分かる事
・能動的なエンジニアを育成する教育の取り組みについて

 

【学校紹介】

トヨタ東京自動車大学校は学校法人トヨタ東京整備学園が運営する国交省指定自動車整備士一種養成施設のトヨタ自動車系列の教育機関。設置学科は1級自動車科[4年制]、自動車整備科[2年制]、国際整備科[3年制]、スマートモビリティ科[2年制]、トヨタセールスエンジニア科[2年制]、ボデークラフト科[1年制]、ボデークラフト研究科[1年制]です。同校は豊田章男氏がトヨタ自動車代表取締役社長就任前まで理事長を務めていた事が知られています。

取材したスマートモビリティー科は1,2年次に自動車整備科で学んだ学生が3,4年次に所属する学科で、高度整備技術を学ぶとともに、ハイブリッド・電気自動車の整備技術、コネクティッドカー、家や地域とのエネルギー、通信ネットワークなどの最先端技術を扱う学科です。

 

写真1.スマートモビリティ科1F。自動車だけでなく住宅、エネルギー、通信などに関する技術も学ぶ


1,魔改造の実践を通じてエンジニアに必要なコトを学ぶ。


(1)企画から設計、製作まですべてを学生が行う「魔改造」演習

魔改造とは、対象を非常に大きく作り替えること、元の意味や用途と大きく逸脱した形に改造することを意味するネット俗語(スラング)で、プラモデルやフィギュア製作者を中心に使われていた言葉ですが、2020年から放送されているNHKの番組「魔改造の夜」をきっかけに広く認知されています。同番組では限られた予算制限の中で家電や玩具を自由な発想で改造し、与えられた課題をクリアする事で人気を博しています。同校での演習科目もこのような要素がある事から魔改造演習と言えるもので、学生が知恵を絞り、手を動かしてものづくりを学んでいます。

 

(2)素材は電動車いす。どのように生まれ変わらせるか?

トランプ配りによって学生たちは、トランプのマークにちなんだ4つのチームに分かれて電動車いすの魔改造(企画、リバースエンジニアリング、設計、製造)に取り組みます。

写真2.スマートモビリティ科2F実習室。チームに分かれてのものづくり演習

 

魔改造の内容、コンセプト、企画、設計、製作それぞれを学生自らが考えて取り組んでいます。

 

学生の何人かに話を聞いて印象的だったのが、自分のタスクだけ取り組むのではなくチーム活動の流れを把握し管理しながら工程を進めている事でした。これは多くの自動車メーカーの現場で用いられているサイマルテニアス・エンジニアリング(SE:同期技術)そのもので、この授業が実践的なものである事がうかがえました。

 

どのチームも仮説→検証を短サイクルで行い、PDCAを実践しています。ただのPDCAと言うよりPの前に「d」(小さな実践(Do))が入ったd-PDCAと表現できそうな実行力のあるものでした。また、あちこちで「なぜなぜ分析」の実践も目にする事ができました。

写真3.チームで取り組むことで一人では得られなかった気づきやアイデアが生まれる。

 

2Fの分解、計測チームと並行して、3Fでは現物採寸を元にCAD部品データ作成やデザイン検討が行われており、これらの進行管理もチーム内で自主的に行っている。

 

写真4.スマートモビリティ科3F PC演習室 学生自身でCADデータ作成、組み立て評価を行う

 

写真5.打ち合わせスペースでデザイン検討作業。彼らはアナログの強みも大事と話す

 

限られた授業時間で、企画、設計、製作を行う学生達ですが、すべて予定通りに進行する訳ではありません。

「部品が足りない」「長さが違う」「外れない」など様々な壁がある様子。

それもそのはず、この演習にはマニュアルはありません。

そんな状態で分解して部品の測定、構造調査を行って再度組み立ててと作業を進めるなかで「うわ入んない」って部品をギュッと押しこむと、講師から「今無理やりはめ込んだやろ、絶対(油)漏れんで! 他のチームみてこい」と優しい愛のツッコミが飛んできて、学生は慌てて同型機をやってるチームを見に行く、このような体験は、「・・・だろう」ではなく「・・・かもしれない」と先を見越して考えるバックキャスティング思考や、能率を考える心構えであるモーションマインドなどエンジニアに必要なコトの学びに繋がっていると感じます。

 

写真6.現場作業台に置いてあったビジネス書。同科学生は車整備の学びと並行し学士号取得に取り組んでいる。
この本は大学の課題図書との事。なお、同科の卒業生における学士取得率は100%との事。

 

2,モノを知るだけでなく、コトの理解にも取り組む

今回の素材は電動車いす。ほとんどの学生が見た事がある程度で操作や乗車をしたことがないモビリティです。

この授業では電動車いすユーザーをゲストに招き、利用者の声、市場情報等を聞く機会が設けられていました。

写真6.ユーザー体験を直接インタビューし、ユーザーを取り巻く環境の理解に努めて、ものづくりに活かす

 

学生がインタビューする姿を見て感じたのが、表面上のヒアリングでなく「なぜ?」を掘り下げてユーザー自身も気づいていなかったコトを知ろうとする姿勢がある事です。

営業やマーケティングの業界で用いられる「デプスインタビュー」という調査方法が用いられますが、まさにそういった手法のようにユーザーに寄り添う姿勢がとても印象的でした。

 

 

3,エンジニア育成を通じて社会に貢献する

同校の教育スローガンは「技術を磨け、そして人間性も」。まさにその通りの教育が行われていると感じました。

学生たちの授業をに参加して、ものづくりの困難な局面や失敗を個人、チームで乗り越えた時の喜びや達成感が伝わってきました。短サイクルでコンカレントにプロジェクトを進めている各チームでは課題を乗り越える、結果を共有する、喜びを共有する事が短サイクルで訪れるのだと考えます。

 

写真7.授業の最後にコンセプト発表があり、チームそれぞれが発表。
プレゼンテーションもエンジニアにおいて重要なスキルである。

 

失敗の経験、困難な局面の突破の経験は持続的に学ぶエンジニアの育成に欠かせないものであると感じました。

この授業はまだ始まったばかり。各チームが生み出す電動車いすの完成が楽しみです。

 

まとめ

・能動的なエンジニアを育成する教育の取り組みについて

ポイント

→エンジニア自身が考え、失敗する機会の提供がエンジニアの成長につながる
→個での学びに加え、チームで学ぶ環境構築で成長の循環が生まれる

 

【インタビューにご協力いただいた方】

 

トヨタ東京自動車大学校  スマートモビリティ科担当講師 鈴木 秀明 氏

トヨタ東京自動車大学校  スマートモビリティ科学生の皆様


【学校概要】

・社名 トヨタ東京自動車大学校 ・所在:東京都 ・発足 1954年(昭和29年) 

  HP https://www.toyota-jaec.ac.jp/

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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