
◆ 第5回 中国製造2025の真実、コストだけでは勝てない時代―「安く作る中国」から「速く開発する中国」へ―
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏)
かつて日本企業が中国へ進出する最大の理由は、安い人件費でした。日本で作るより、中国で多くの作業者を配置した方が製造原価を下げられる。多少の手作業が残っていても、人を増やせば生産量を確保できる。そう考えて中国に工場を造った企業は少なくありません。私が中国の製造現場に関わり始めた頃も、部品の供給、組立、外観検査、箱詰めまで、大勢の作業者が担っていました。日本人技術者が自動化を提案すると、現地の管理者から、こう言われることもありました。
「設備を入れるより、人を二人増やした方が安いです」
当時の計算では、間違いとはいえません。高価な自動機を導入し、保守要員を育てるより、作業者を増やす方が早く、初期投資も少なくて済んだからです。ところが、その前提は大きく変わりました。中国では人件費が上昇し、製造業で若い作業者を集めることも難しくなりました。採用しても定着せず、春節後に工場へ戻らない人がいる。仕事を覚えた頃に退職され、また一から教育しなければならない。人に頼った生産そのものが、経営上のリスクになってきたのです。
ある工場では、十数人が並んでいた組立工程に、自動供給装置とロボットが導入されました。以前は「人の方が安い」と話していた管理者が、今度は「人に頼っていては生産計画が立てられない」と言いました。自動化の目的は、人件費の削減だけではありません。必要な数量を、必要な時期に、安定した品質で作るための手段へと変わったのです。
◆関連解説記事...

◆ 第5回 中国製造2025の真実、コストだけでは勝てない時代―「安く作る中国」から「速く開発する中国」へ―
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏)
かつて日本企業が中国へ進出する最大の理由は、安い人件費でした。日本で作るより、中国で多くの作業者を配置した方が製造原価を下げられる。多少の手作業が残っていても、人を増やせば生産量を確保できる。そう考えて中国に工場を造った企業は少なくありません。私が中国の製造現場に関わり始めた頃も、部品の供給、組立、外観検査、箱詰めまで、大勢の作業者が担っていました。日本人技術者が自動化を提案すると、現地の管理者から、こう言われることもありました。
「設備を入れるより、人を二人増やした方が安いです」
当時の計算では、間違いとはいえません。高価な自動機を導入し、保守要員を育てるより、作業者を増やす方が早く、初期投資も少なくて済んだからです。ところが、その前提は大きく変わりました。中国では人件費が上昇し、製造業で若い作業者を集めることも難しくなりました。採用しても定着せず、春節後に工場へ戻らない人がいる。仕事を覚えた頃に退職され、また一から教育しなければならない。人に頼った生産そのものが、経営上のリスクになってきたのです。
ある工場では、十数人が並んでいた組立工程に、自動供給装置とロボットが導入されました。以前は「人の方が安い」と話していた管理者が、今度は「人に頼っていては生産計画が立てられない」と言いました。自動化の目的は、人件費の削減だけではありません。必要な数量を、必要な時期に、安定した品質で作るための手段へと変わったのです。
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1.中国工場の自動化とは
中国工場の自動化は、必ずしも日本と同じ進め方ではありません。
日本では、設備仕様を細かく詰め、故障や品質不良の可能性をできるだけ減らしてから製作に入ります。一方、私が見た中国企業の中には、まず設備を造り、現場で動かしながら短期間に改良を重ねる企業がありました。
最初から完成度が高いわけではありません。停止や不良も起こります。それでも問題が見つかると、その日のうちに担当者が集まり、部品を交換し、制御プログラムを書き換えます。翌日には改造した設備を動かし、結果を確認します。
日本側が会議の日程を調整している間に、中国側の試作機は二度、三度と姿を変えている。その速さに驚かされたことが何度もありました。
2.速さの強みがよく表れているのが新しい産業
この強みがよく表れているのが、EVをはじめとする新しい産業です。
EVは、単にエンジンをモーターへ置き換えた自動車ではありません。電池、モーター、インバーター、電子制御、ソフトウェアなどを組み合わせた製品です。部品構成が変われば、製造設備や検査方法、必要な技術者も変わります。
中国企業は大きな国内市場を背景に、開発、試作、量産を短い周期で繰り返してきました。十分に完成度を高めてから市場へ出すのではなく、まず投入し、顧客の反応を確かめながら改良する。この回転の速さが競争力になっています。
日本企業が注意すべきなのは、「中国企業は価格だけで勝負している」と考えることです。

3.総合力で競争する企業
現在の中国企業は、安い製品だけを作っているわけではありません。自動化設備への大胆な投資、製品開発力、現地の調達網、意思決定の速さを組み合わせ、総合力で競争する企業が増えています。
もちろん、中国で生産すれば必ず成功するわけではありません。人件費だけを見て進出した企業ほど、賃金上昇、品質管理、人材定着、法規制への対応に苦しみます。人件費の安い別の国へ移っても、労働力だけに頼る生産を続ければ、いずれ同じ問題に直面するでしょう。
大切なのは、「どこで安く作るか」ではなく、「どうすれば少ない人員で品質を安定させ、市場の変化に素早く対応できるか」を考えることです。
自動化も、単純に人をロボットへ置き換えればよいわけではありません。部品供給が不安定なら、自動機は止まります。製品のばらつきを放置すれば、不良が増えます。設備を入れる前に、製品設計、工程、品質基準を見直す必要があります。
かつて中国の強みは、豊富で安価な労働力でした。現在は、設備投資の大胆さ、開発の速さ、技術者の行動力、巨大市場から得られる情報が、新しい競争力を生み出しています。
日本企業に求められるのは、中国より安く作ることではありません。長年培った品質、安全性、信頼性を守りながら、意思決定と開発の速度を高めることです。「安い工場」という昔の印象にとらわれていると、本当の変化を見誤ります。
次回は、「改正反スパイ法で何が変わったのか」を取り上げます。中国で活動する企業や技術者は、どのような情報管理に注意すべきなのか。確認できる事実と私自身の考察を分け、現場の視点から考えます。
【参考資料】
ジェトロ「山東省の日系企業、事業拡大から効率化へ」
ジェトロ「日本や中国からASEANへの生産移管進む」
※本記事を執筆した専門家「森内 眞」が講師のセミナー 一覧