
第4回 中国製造2025の真実、中国人技術者は本当に優秀だった―「教える相手」から「共に考える仲間」へ―
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏)
中国の工場で技術指導をしていると、日本へ帰国した際に「中国人技術者のレベルは、実際のところどうなのですか」とよく聞かれました。この問いに一言で答えるのは簡単ではありません。ただ、十数年にわたって中国の製造現場に関わった私の実感を率直に言えば、優秀な技術者は大勢いました。知識が豊富というだけではありません。新しい技術を吸収する速さ、失敗を恐れず試してみる行動力、成果を出すことへの執着には、何度も驚かされました。もちろん、すべての技術者が同じではありません。経験や基礎知識には差があり、設計の考え方が十分に身に付いていない人もいました。しかし、それは日本でも同じです。国籍だけで技術者の優劣を判断することはできません。
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◆関連解説記事:第2回 中国製造2025の真実、技術移転はどこで道を誤ったのか
◆関連解説記事:第3回 中国製造2025の真実、中国工場で学んだ品質管理
1.翌朝には改善案ができていた
ある工場で、生産設備の不具合について若い中国人技術者たちと検討したときのことです。
装置は動くものの、部品の位置が安定せず、ときどき停止していました。私は現物を見ながら、部品の寸法ばらつき、治具の案内方法、センサーの検出位置などを確認しました。そして「原因を一つに決めつけず、条件を分けて調べてみよう」と伝えました。その日の打ち合わせは...

第4回 中国製造2025の真実、中国人技術者は本当に優秀だった―「教える相手」から「共に考える仲間」へ―
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏)
中国の工場で技術指導をしていると、日本へ帰国した際に「中国人技術者のレベルは、実際のところどうなのですか」とよく聞かれました。この問いに一言で答えるのは簡単ではありません。ただ、十数年にわたって中国の製造現場に関わった私の実感を率直に言えば、優秀な技術者は大勢いました。知識が豊富というだけではありません。新しい技術を吸収する速さ、失敗を恐れず試してみる行動力、成果を出すことへの執着には、何度も驚かされました。もちろん、すべての技術者が同じではありません。経験や基礎知識には差があり、設計の考え方が十分に身に付いていない人もいました。しかし、それは日本でも同じです。国籍だけで技術者の優劣を判断することはできません。
◆関連解説記事:第1回 中国製造2025の真実、日本企業はなぜ中国との向き合い方を変え始めたのか
◆関連解説記事:第2回 中国製造2025の真実、技術移転はどこで道を誤ったのか
◆関連解説記事:第3回 中国製造2025の真実、中国工場で学んだ品質管理
1.翌朝には改善案ができていた
ある工場で、生産設備の不具合について若い中国人技術者たちと検討したときのことです。
装置は動くものの、部品の位置が安定せず、ときどき停止していました。私は現物を見ながら、部品の寸法ばらつき、治具の案内方法、センサーの検出位置などを確認しました。そして「原因を一つに決めつけず、条件を分けて調べてみよう」と伝えました。その日の打ち合わせは夕方に終わりました。翌朝、現場へ行くと、担当技術者はすでに複数の条件で試験を行い、結果を表にまとめていました。さらに、治具の簡単な改善案まで用意していたのです。
私が驚いたのは、作業の速さだけではありません。彼は私の指示をそのまま実行したのではなく「なぜ位置が安定しないのか」を自分なりに考え、確認項目を追加していました。改善案には未熟な部分もありました。それでも、自分で仮説を立て、すぐに現物で確かめようとする姿勢は、技術者として非常に頼もしいものでした。
2.「答え」を教えるだけでは人は育たない
中国で指導を始めた頃の私は、日本で使ってきた設計基準や改善方法を丁寧に説明すれば、技術は伝わると考えていました。
ところが、資料を渡し、正しい手順を教えるだけでは、似たような問題が形を変えて再発します。答えは覚えても、その答えに至る考え方までは身に付いていなかったのです。そこで、指導方法を変えました。
「この寸法にしなさい」ではなく、「なぜ、この寸法が必要だと思いますか」と問い掛けるようにしました。不具合が起きたときも、すぐに答えを示さず、現物、図面、測定結果を並べ、一緒に原因を考えました。最初は発言をためらっていた技術者も、考えを否定せずに聞くと、少しずつ意見を出すようになります。やがて、私が気付かなかった問題点を指摘したり、現地で入手しやすい部品を使った別案を提案したりするようになりました。
そこまで来ると、「教える側」と「教えられる側」という関係ではありません。同じ課題を一緒に解決する、技術者同士の関係です。
3.行動力を組織の力に変える
一方、中国人技術者の行動力が、いつも良い結果を生むとは限りません。
まず動かしてみようとするあまり、変更理由を図面に残さない、試験条件をそろえない、過去の不具合を十分に振り返らない、といったこともありました。担当者が替わると、せっかくの改善内容が引き継がれず、同じ問題が再発することもあります。ここで必要なのは「もっと注意しなさい」という精神論ではありません。設計変更の記録、試験条件の標準化、レビューの実施、失敗事例の共有といった仕組みです。個人の速さと組織の再現性が結び付いて、初めて工場全体の技術力になります。
これは中国だけの課題ではありません。日本企業には、慎重に検討するあまり決定が遅れる、前例のない提案を受け入れにくい、といった弱点があります。中国側のスピードと挑戦する力、日本側の標準化と技術を積み上げる力。それぞれの長所を組み合わせれば、どちらか一方の方法に合わせるより、はるかに強い製造現場をつくることができます。
4.技術者を国籍で見ない
私が中国の現場で学んだのは「中国人技術者は優秀か」という問いそのものに限界があることです。
見るべきなのは国籍ではありません。その人が現物を見て考えているか、失敗から学んでいるか、得られた知識を周囲と共有しているかです。伸びる技術者には共通点があります。分からないことを曖昧にせず、すぐに確かめる。教わった方法を丸暗記せず、自分の仕事に置き換える。そして、一度の成功で満足せず、さらに良くする方法を考える。この姿勢は、日本でも中国でも変わりません。
中国人技術者は、もはや日本から一方的に技術を教わるだけの存在ではありません。分野によっては、日本側がその速さや発想から学ぶ場面も増えています。相手を過小評価しても、過大評価しても、本当の姿は見えません。互いの強みと弱みを率直に認め、同じ現物を見ながら知恵を出し合う。それが、国境を越えた技術協力の出発点だと思います。
次回は、人件費の上昇、自動化の進展、EV産業の成長などを背景に、「安いコスト」だけでは語れなくなった中国製造業の現在について、現場で感じた変化を紹介します。
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