
システム刷新の現場でよく耳にする「DXのためにExcelをなくそう」という声。
しかし、従来の作業をそのまま新システムに置き換えるだけでは、真のDXとはいえません。多くのExcel業務は、既存システムと現場の「隙間」を埋めるために生まれたものです。そのため、ツールをなくすことよりも「なぜその業務が存在するのか」を根本から問うことが重要です。本記事では、既存業務を「残す」「システム化する」「やめる」の3つに分類し、単なるデジタル化にとどまらない、自社主体の業務改革へとつなげるシステム刷新の考え方を解説します。
1. はじめに
「DXを進めるためにExcelをなくそう。」
システム刷新のプロジェクトで、このような話を聞くことがあります。確かに、複数のExcelファイルに同じデータを入力したり、担当者しか分からないマクロを使っていたりする状態は、業務効率や属人化の観点から問題があります。
しかし、Excelをなくして新しいシステムに置き換えればDX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)が実現するのでしょうか。
私はそうは考えていません。
例えば、Excelで行っていた作業をそのままシステムの画面に置き換えただけでは、入力する道具がExcelからシステムに変わっただけです。業務そのものは何も変わっていません。
DXで本当に考えるべきなのは、「Excelをどうなくすか」ではなく「なぜこのExcel業務が存在しているのか」です。
今回は、システム刷新を単なるデジタル化で終わらせず、業務改革につなげるための考え方について解説します。
2. Excelは本当に悪者なのか
製造業の現場には、多くのExcelファイルが存在します。
生産計画、在庫管理、原価計算、進捗管理、品質管理、実績集計など、さまざまな業務で利用されています。
私はExcelそのものが悪いとは考えていません。
Excelには、担当者が自分で作れる、短期間で変更できる、特別なシステム開発が必要ないといった大きな利点があります。新しい業務を始める際に、まずExcelで管理してみることは合理的な方法です。
問題は、Excelが長年使われ続けた結果、会社の重要な業務を支える仕組みになってしまうことです。
例えば、
- 担当者しか計算式を理解していない
- 同じ情報を複数のExcelへ転記している
- どのファイルが最新版か分からない
- 入力ミスを確認するため、別のチェック用Excelを作っている
- 担当者が休むと業務が止まる
といった状況です。
ここまで来ると、Excelの問題と...

システム刷新の現場でよく耳にする「DXのためにExcelをなくそう」という声。
しかし、従来の作業をそのまま新システムに置き換えるだけでは、真のDXとはいえません。多くのExcel業務は、既存システムと現場の「隙間」を埋めるために生まれたものです。そのため、ツールをなくすことよりも「なぜその業務が存在するのか」を根本から問うことが重要です。本記事では、既存業務を「残す」「システム化する」「やめる」の3つに分類し、単なるデジタル化にとどまらない、自社主体の業務改革へとつなげるシステム刷新の考え方を解説します。
1. はじめに
「DXを進めるためにExcelをなくそう。」
システム刷新のプロジェクトで、このような話を聞くことがあります。確かに、複数のExcelファイルに同じデータを入力したり、担当者しか分からないマクロを使っていたりする状態は、業務効率や属人化の観点から問題があります。
しかし、Excelをなくして新しいシステムに置き換えればDX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)が実現するのでしょうか。
私はそうは考えていません。
例えば、Excelで行っていた作業をそのままシステムの画面に置き換えただけでは、入力する道具がExcelからシステムに変わっただけです。業務そのものは何も変わっていません。
DXで本当に考えるべきなのは、「Excelをどうなくすか」ではなく「なぜこのExcel業務が存在しているのか」です。
今回は、システム刷新を単なるデジタル化で終わらせず、業務改革につなげるための考え方について解説します。
2. Excelは本当に悪者なのか
製造業の現場には、多くのExcelファイルが存在します。
生産計画、在庫管理、原価計算、進捗管理、品質管理、実績集計など、さまざまな業務で利用されています。
私はExcelそのものが悪いとは考えていません。
Excelには、担当者が自分で作れる、短期間で変更できる、特別なシステム開発が必要ないといった大きな利点があります。新しい業務を始める際に、まずExcelで管理してみることは合理的な方法です。
問題は、Excelが長年使われ続けた結果、会社の重要な業務を支える仕組みになってしまうことです。
例えば、
- 担当者しか計算式を理解していない
- 同じ情報を複数のExcelへ転記している
- どのファイルが最新版か分からない
- 入力ミスを確認するため、別のチェック用Excelを作っている
- 担当者が休むと業務が止まる
といった状況です。
ここまで来ると、Excelの問題というよりも、業務の仕組みそのものに問題があると考える必要があります。
3. なぜExcel業務は増え続けるのか
Excel業務が増える背景には理由があります。
典型的なのは、既存システムが現場の変化についていけなくなったケースです。
製造業では、取引先から新しい帳票を求められたり、製品が増えたり、管理方法が変更されたりします。しかし、基幹システムを変更するには費用と時間がかかります。
そこで現場は、
「システムでできないならExcelで対応しよう。」
と考えます。
最初は一つのExcelだったものが、業務の変化に合わせて2つ、3つと増えていきます。さらに入力ミスを防ぐためのチェックツールや、複数のExcelを集計するためのツールまで作られます。
つまり、Excelは原因ではありません。
既存システムと実際の業務との間に生まれた「隙間」を、現場がExcelで埋めてきた結果なのです。

この視点は非常に重要です。
システム刷新の際にExcelだけをなくそうとすると、この隙間がなぜ生まれたのかを理解しないまま、新システムへ機能を移植することになってしまいます。
4.「現行業務をそのままシステム化する」という落とし穴
システム刷新の要件定義では、現在使われているExcelやAccess、紙の帳票などを一覧化することがあります。
これは必要な作業です。
しかし、ここで注意しなければならないことがあります。
例えば、現場から、
「このExcelと同じ画面を作ってください。」
と言われたとします。
その要求をそのまま受け入れてしまうと、新システムにも同じ業務が残ります。
本来確認すべきなのは、
「なぜ、このExcelが必要なのですか。」
ということです。
話を聞いていくと、
「基幹システムから必要なデータが取れないから。」
「別部門から届くデータの形式が違うから。」
「毎朝、会議用に集計する必要があるから。」
など、本当の理由が見えてきます。
例えば、新システムで必要な情報をリアルタイムに表示できるのであれば、毎朝Excelに転記して集計する業務そのものが不要になるかもしれません。
重要なのは、Excelの機能を新システムへ移すことではありません。
その業務をゼロから考え直すことです。
5.「残す」「システム化する」「やめる」の3つに分ける
では、既存のExcel業務をどのように整理すればよいのでしょうか。
私は、システム刷新時には大きく3つに分類して考えることが有効だと考えています。

◆ 5.1 残す
Excelの方が適している業務まで、無理にシステム化する必要はありません。
利用者が限定され、頻度も低く、変更が多い分析業務などでは、Excelの柔軟性が有効な場合があります。
「DXだからExcel禁止」と考える必要はありません。
◆ 5.2 システム化する
複数部門で同じ情報を使用する業務、頻繁に転記が発生する業務、ミスが経営や生産に大きな影響を与える業務などは、システム化を検討すべきです。
特に、基幹となるデータをExcelで個別管理している場合は注意が必要です。
同じ「在庫数」なのに、製造部門、営業部門、経理部門で数字が違う、といった事態につながるからです。
◆ 5.3 やめる
実は、ここが最も重要です。
長年続いている業務の中には、
「以前からやっているから。」
という理由だけで残っているものがあります。
誰も見ていない帳票を毎月作っている、別の資料とほぼ同じ内容を再入力している、といった業務です。
新システムに移行する前に、
「この業務は本当に必要なのか。」
を問い直します。
不要な業務を廃止することは、最も効果の高い業務改善です。
6. システム刷新は業務改革の絶好の機会
システム刷新では、現行システムの機能一覧を作り、
「これは新システムにも必要です。」
「これも必要です。」
と積み上げてしまいがちです。
しかし、この進め方では、古い業務を新しいシステムへ引っ越すだけになってしまいます。
私は、システム刷新を業務を見直す絶好の機会と捉えるべきだと考えています。
第1回、第2回でも説明したように、要件定義では最初から画面や機能を考えるのではなく、
「会社として何を実現したいのか。」
「そのために、どのような業務に変える必要があるのか。」
「その業務を支えるために、システムに何が必要なのか。」
という順番で考えます。
つまり、
経営上の目的
↓
業務改革
↓
業務要件
↓
システム要件
という流れです。
この順番を逆にしてはいけません。
7. ベンダー任せでは業務改革はできない
ここでもう一つ重要なのが、誰が業務改革を考えるのかという問題です。
「新しいシステムを導入するのだから、ベンダーが良い方法を提案してくれるだろう。」
と期待する企業もあります。
もちろん、ベンダーはシステムや製品について豊富な知識を持っています。しかし、自社の業務を最も理解しているのは自社の人間です。
なぜこの業務が必要なのか。
どこに無駄があるのか。
お客様から何を求められているのか。
将来どのような会社になりたいのか。
これらを決める責任までベンダーへ任せることはできません。
ユーザ企業側が主体となり、現場、管理者、システム部門が一緒になって「あるべき業務」を考え、それをベンダーとシステム要件へ落とし込むことが重要です。
まとめ
Excel業務をなくすことはDXの目的ではありません。
Excelは、長年にわたって現場が業務上の問題を解決するために作ってきた仕組みでもあります。
だからこそ、システム刷新では単純にExcelを廃止するのではなく、
「なぜ、このExcelが必要になったのか。」
「この業務は今後も必要なのか。」
「新しい業務ではどうあるべきなのか。」
を一つずつ考える必要があります。
そして、「残す」「システム化する」「やめる」を判断します。
DXとは、紙をExcelに変えることでも、Excelをシステムに変えることでもありません。
仕事のやり方そのものを見直し、デジタル技術を使って、より良い業務へ変えていくことです。
システム刷新は、単なるITの更新ではありません。
これまで当たり前だと思っていた業務を問い直し、会社の仕事の仕組みを変える絶好の機会なのです。