高難度自動化とは何か、第3回 柔らかいものは、なぜ自動化しにくいのか

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高難度自動化とは何か、第3回 柔らかいものは、なぜ自動化しにくいのか

 

◆高難度自動化とは何か、第3回 柔らかいものは、なぜ自動化しにくいのか― フィルム・ゴム・紙・ケーブルを安定して扱う設計の考え方 ―

自動化設備は、硬い部品を扱うことを得意としています。金属部品や樹脂成形品であれば、寸法と形状がほぼ一定で、同じ位置をつかめば、ほぼ同じ姿勢で搬送できます。ところが、フィルム、ゴム、紙、ケーブルのような柔らかいものになると、事情が大きく変わります。つかめば変形する。持ち上げれば垂れ下がる。吸着すればしわが寄る。離そうとしても貼り付いて落ちない――。人なら何気なくできる作業が、設備にとっては難題となります。柔らかいものの自動化では、ロボットの精度よりも、「対象物の状態をどう安定させるか」が重要になるのです。

関連解説記事:高難度自動化とは何か、第1回~成功する自動化と失敗する自動化の分岐点~ 

関連解説記事:高難度自動化とは何か、第2回~位置決め精度は、なぜ狙い通りに出ないのか~

 

【目次】

    ◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏

     

    1.柔らかいものには「決まった形」がない

    硬い部品には「決まった形」があります。しかし、柔らかいものの形は、置き方、温度、湿度、静電気、巻きぐせ、表面状態などによって変わります。例えば、薄いフィルムを真空パッドで吸着するとします。真空圧が低すぎれば搬送中に落下します。そこで真空圧を高くすると、今度はフィルムが変形し、しわや吸着痕が発生します。


    紙の場合は、湿度によって反りや摩擦係数が変化します。朝は問題なく一枚ずつ供給できていたのに、午後になると二枚取りが増えることもあります。


    ゴム部品は柔らかいだけでなく摩擦が大きいため、治具やシュートの中で引っ掛かりやすくなります。ケーブルはさらに厄介です。垂れ下がった部分が周囲に絡んだり、コネクタの向きが安定し...

    高難度自動化とは何か、第3回 柔らかいものは、なぜ自動化しにくいのか

     

    ◆高難度自動化とは何か、第3回 柔らかいものは、なぜ自動化しにくいのか― フィルム・ゴム・紙・ケーブルを安定して扱う設計の考え方 ―

    自動化設備は、硬い部品を扱うことを得意としています。金属部品や樹脂成形品であれば、寸法と形状がほぼ一定で、同じ位置をつかめば、ほぼ同じ姿勢で搬送できます。ところが、フィルム、ゴム、紙、ケーブルのような柔らかいものになると、事情が大きく変わります。つかめば変形する。持ち上げれば垂れ下がる。吸着すればしわが寄る。離そうとしても貼り付いて落ちない――。人なら何気なくできる作業が、設備にとっては難題となります。柔らかいものの自動化では、ロボットの精度よりも、「対象物の状態をどう安定させるか」が重要になるのです。

    関連解説記事:高難度自動化とは何か、第1回~成功する自動化と失敗する自動化の分岐点~ 

    関連解説記事:高難度自動化とは何か、第2回~位置決め精度は、なぜ狙い通りに出ないのか~

     

    【目次】

      ◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏

       

      1.柔らかいものには「決まった形」がない

      硬い部品には「決まった形」があります。しかし、柔らかいものの形は、置き方、温度、湿度、静電気、巻きぐせ、表面状態などによって変わります。例えば、薄いフィルムを真空パッドで吸着するとします。真空圧が低すぎれば搬送中に落下します。そこで真空圧を高くすると、今度はフィルムが変形し、しわや吸着痕が発生します。


      紙の場合は、湿度によって反りや摩擦係数が変化します。朝は問題なく一枚ずつ供給できていたのに、午後になると二枚取りが増えることもあります。


      ゴム部品は柔らかいだけでなく摩擦が大きいため、治具やシュートの中で引っ掛かりやすくなります。ケーブルはさらに厄介です。垂れ下がった部分が周囲に絡んだり、コネクタの向きが安定しなかったりします。


      このような現象を、「材料が悪い」「ワークがばらついている」で片づけてはいけません。そのばらつきを受け止めることまで含めて、自動化設備の設計だからです。

       

      2.人の手は「つかむ・感じる・直す」を繰り返している

      人の手は、単に対象物をつかんでいるわけではありません。指先で滑りや張りを感じ、目でしわや傾きを確認し、必要に応じて持つ位置や力を変えています。つまり、人は「つかむ・感じる・直す」をほぼ同時に行っているのです。


      この作業をロボットへ置き換えるとき、手の動きだけを再現しても安定しません。人が無意識に行っていた判断と補正まで、設備の機能として分解する必要があります。柔らかいものを扱う設計で最初に考えたいのは、「どこをつかむか」ではありません。「どのような状態をつくれば扱いやすくなるか」です。

       

      3.つかむ前に対象物の状態を整える

      例えば、薄いフィルムなら、いきなり中央部を吸着するのではなく、端部から空気を逃がしながら吸着する方法があります。複数の小さな吸着パッドを使い、吸着力を分散させる方法も有効です。紙を一枚ずつ供給する場合は、吸着だけに頼らず、エアを吹き込んで紙と紙の間に空気層をつくります。ここでは、空気もハンドの一部と考えます。ゴム部品では、滑らせて整列させるよりも、摩擦の影響を受けにくい姿勢で保持し、短い距離を確実に移す方が安定することがあります。ケーブルの場合は、先端だけをつかんでも途中の姿勢が決まりません。複数箇所を保持する、ガイドの中を通す、必要な長さだけを送り出すなど、自由に動く部分を減らす工夫が必要です。


      このように、柔らかいものを安定して扱うには、ハンドの性能だけでなく、対象物の姿勢を整える治具やガイド、供給方法まで含めて考えなければなりません。

       

      4.一つの最適値ではなく「安定領域」を見つける

      高精度なロボットを導入すれば解決すると思われがちですが、柔らかいものの自動化では、ロボットの繰り返し精度が高くても、対象物の形が毎回変われば結果は安定しません。大切なのは、「対象物を完全に制御すること」ではなく、「ばらついても失敗しない範囲を広げること」です。


      真空圧、押し付け力、搬送速度、加速度、保持位置などについて、一つの最適値だけを探すのではなく、多少条件が変化しても安定する領域を見つけます。私はこれを、柔らかいものを扱うための「安定領域」と考えています。


      安定領域が狭い設備は、調整直後だけ動きます。材料のロットや気温、湿度が変わると、すぐに停止します。一方、安定領域の広い設備は、現場で多少の変化が起きても生産を続けられます。


      試作段階では一つの条件で動いたとしても、それだけでは量産設備として十分ではありません。条件を意図的に変え、どこまで安定して動くかを確認することが重要です。

       

      高難度自動化とは何か、第3回 柔らかいものは、なぜ自動化しにくいのか

       

      5.難しい作業を、難しいまま自動化しない

      柔らかいものの自動化では、「どう動かすか」よりも、「動かす前にどのような状態をつくるか」が成否を分けます。


      人の手の器用さを、そのまま機械で再現する必要はありません。材料の自由度を減らし、姿勢を整え、ばらつきを吸収する仕組みをつくれば、複雑な作業を単純な動作へ置き換えられます。


      難しい作業を、難しいまま自動化しようとしないこと。これが、フィルム、ゴム、紙、ケーブルなど、柔らかいものを安定して扱うための最も重要な設計思想です。


      次回予告


      次回は、柔らかいものを扱う自動化の具体的な事例を紹介します。


      対象となるのは、防毒マスクのゴム製本体に設けられた溝へ、アクリル製レンズをはめ込む工程です。マスク本体は成形品ですが、ゴム製のため形状が安定せず、つかむ位置や押し付ける力によって大きく変形します。一方、アクリル製レンズは硬く、無理な力を加えると傷や割れが生じるおそれがあります。


      人はゴムを少しずつ広げながら、レンズの位置と傾きを調整して溝へはめ込みます。この熟練作業を、どのような仕組みと発想で自動化したのか。柔らかい部品と硬い部品を組み合わせる難しさ、治具設計の工夫、力の加え方などを、実際の事例を通して詳しく解説します。

       

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      この記事の著者

      森内 眞

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