
自動化設備が完成し、試運転でロボットがワークをつかんだ瞬間、関係者から拍手が起こることがあります。確かに、機械が初めて狙いどおりに動く光景には感動があります。しかし、本当の勝負はその後です。100回、1000回と繰り返しても同じように動くのか。材料のロットや気温が変わっても品質を維持できるのか。異常を自ら検出し、安全に停止できるのか。そして、作業者が短時間で復旧できるのか――。一度動いた設備と、毎日安定して生産できる設備は、全く別のものです。
製造現場で自動化の相談を受けると、「人の作業をロボットに置き換えたい」という話から始まることが少なくありません。しかし、現場を詳しく見ると、部品の位置や寸法にはばらつきがあり、柔らかく変形するものや、表裏がそろっていないものもあります。材料の状態が温度や湿度によって変化することもあります。人は、こうした変化を目や指先で感じ取り、無意識に作業方法を調整しています。一方、設備は基本的に、設計者が想定して組み込んだ条件にしか対応できません。ここに、自動化の本当の難しさがあります。
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏)
1.高難度自動化とは何か
私は、高難度自動化を「高価なロボットや最新のAIを使った自動化」とは考えていません。高難度自動化とは、人が経験や感覚、判断力によって成立させている作業を分析し、変動する生産条件の中でも安定して再現できる設備へ置き換えることです。
例えば、作業者が部品をつかんで穴へ挿入する作業を考えてみましょう。作業者は部品の向きを確認し、変形していれば持つ位置を変えます。挿入時に抵抗を感じれば力や角度を調整し、異物に気付けば作業を中断します。
しかし、作業手順書には「部品をつかみ、所定の穴へ挿入する」としか書かれていないかもし...

自動化設備が完成し、試運転でロボットがワークをつかんだ瞬間、関係者から拍手が起こることがあります。確かに、機械が初めて狙いどおりに動く光景には感動があります。しかし、本当の勝負はその後です。100回、1000回と繰り返しても同じように動くのか。材料のロットや気温が変わっても品質を維持できるのか。異常を自ら検出し、安全に停止できるのか。そして、作業者が短時間で復旧できるのか――。一度動いた設備と、毎日安定して生産できる設備は、全く別のものです。
製造現場で自動化の相談を受けると、「人の作業をロボットに置き換えたい」という話から始まることが少なくありません。しかし、現場を詳しく見ると、部品の位置や寸法にはばらつきがあり、柔らかく変形するものや、表裏がそろっていないものもあります。材料の状態が温度や湿度によって変化することもあります。人は、こうした変化を目や指先で感じ取り、無意識に作業方法を調整しています。一方、設備は基本的に、設計者が想定して組み込んだ条件にしか対応できません。ここに、自動化の本当の難しさがあります。
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 製造業を変革する力(森内 眞 氏)
1.高難度自動化とは何か
私は、高難度自動化を「高価なロボットや最新のAIを使った自動化」とは考えていません。高難度自動化とは、人が経験や感覚、判断力によって成立させている作業を分析し、変動する生産条件の中でも安定して再現できる設備へ置き換えることです。
例えば、作業者が部品をつかんで穴へ挿入する作業を考えてみましょう。作業者は部品の向きを確認し、変形していれば持つ位置を変えます。挿入時に抵抗を感じれば力や角度を調整し、異物に気付けば作業を中断します。
しかし、作業手順書には「部品をつかみ、所定の穴へ挿入する」としか書かれていないかもしれません。
この短い一文の中には、向きの判定、把持位置の選択、力加減、位置補正、異常の発見、やり直しの判断など、数多くの「書かれていない仕事」が隠れています。これを見つけないまま自動化すると、設備は完成しても安定した生産にはつながりません。
2.「動いた」と「生産できる」は違う
生産設備に求められるのは、一度の成功ではなく、連続運転における再現性です。
仮に100回に1回停止する設備があるとします。数十回の試運転では問題がないように見えても、1日に数万個を生産すれば、何度も停止します。そのたびに作業者が詰まったワークを取り除き、設備を再起動していては、設備を見守る人が必要になります。
また、設備を止めないために判定を甘くすれば不良品を見逃し、厳しくしすぎれば良品まで異常と判断します。自動化設備には、正しく動く能力だけでなく、正常と異常を適切に見分ける能力が必要なのです。
3.1日4億個を扱う工程で学んだこと
私は電子部品メーカーで、0.6mm×0.3mmほどの極小チップを扱う製造工程の自動化に携わりました。1日の生産数量は約4億個です。この規模では、不良率が0.01%でも不良数は4万個になります。割合だけを見れば小さく感じますが、実数にすると無視できません。私が担当した外部電極形成工程では、塗布材料の粘度、転写量、塗布厚さ、乾燥状態などが品質に影響しました。同じ設定でも、材料や周囲の状態が変われば、同じ結果になるとは限りません。
塗布量が多すぎれば形状不良や短絡の原因となり、少なすぎれば導通不良につながります。必要なのは、ただ塗ることではなく、適正な量を適正な位置へ、同じ状態で繰り返し転写することです。機械の精度を高めても、材料が安定していなければ品質はばらつきます。画像検査を追加しても、不良の原因を取り除かなければ、不良品を選別し続けるだけです。
この経験から、高難度自動化とは「機械を作る仕事」ではなく、「安定して良品が流れる工程全体を設計する仕事」だと学びました。
4.成功する自動化は、正常より異常を考える
失敗しやすい自動化は、正常なワークが正しい位置に供給されるという「最も都合のよい状態」を前提にしています。しかし現場では、ワークの傾きや重なり、治具への異物付着、センサーの汚れ、材料特性の変化、部品の投入間違いなどが起こります。
異常を検出できるか。安全に停止できるか。不良品と良品が混ざらないか。短時間で復旧できるか。同じ異常を繰り返さない仕組みになっているか。これらを計画段階で考えることが、成功と失敗の分岐点になります。
5.自動化の成否を分ける三つの視点
高難度自動化では、「製品」「工程」「人」という三つの視点が重要です。製品を見るとは、図面だけでなく、実物のばらつき、変形、摩擦、表面状態、傷つきやすさを確認することです。
工程を見るとは、自動化する作業だけでなく、前工程からワークがどのような状態で来て、後工程がどのような品質を求めているかを調べることです。
人を見るとは、熟練作業者がどこを見て、何を基準に判断しているかを明らかにすることです。ただし、人の動作をそのまま機械で再現する必要はありません。供給姿勢をそろえる、案内部を設ける、治具を工夫するなど、作業自体を単純化した方が安定する場合があります。
人の動きをまねるのではなく、人が行っている判断を技術的な条件へ置き換え、設備が判断しやすい工程へ作り直す。これが高難度自動化の出発点です。
自動化の目的は、人を外すことだけではありません。品質を安定させ、危険作業や重労働を減らし、人が原因分析や改善など、より価値の高い仕事に取り組めるようにすることです。
自動化の難題は、機械だけでは解けません。製品、工程、材料、品質、設備、そして人を一つの仕組みとして捉える設計力によって解くものなのです。
次回は、高難度自動化で避けて通れない「位置決め精度」を取り上げます。μm単位の精度を狂わせる原因と、設備全体で精度を作り込む考え方について解説します。
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