
長年解決が難しかった超小型電子部品「MLCI(積層セラミックインダクタ)」の外部電極塗布工程。0603という極小サイズかつ日産4億個という膨大な量産体制において、フェライト特有の寸法ばらつきや脆さをいかに攻略し、自動化を実現するかは至難の業でした。本記事では、機械部門の技術士である著者が、単なる設備の機械化にとどまらず「現象の解明」と熟練者の「暗黙知の形式知化」によって挑んだ、高難度な自動化プロジェクトの舞台裏を解説します。T(公差)・Z(塗布領域)・Zero Defectの視点に基づく工程再設計から、課題解決に至る5つの技術的アプローチまで、自動化の本質に迫る泥臭くも実践的な知見をお届けします。
1. はじめに― なぜこの自動化は難しかったのか

私は機械部門の技術士として、これまで数多くの生産技術課題に取り組んできました。その中でも、今振り返ってみても特に難易度が高かったテーマの一つが、MLCI(積層セラミックインダクタ)外部電極塗布工程の自動化でした。一見すると「電極を塗る工程を自動化するだけ」と思われるかもしれません。
しかし、現実は全く違いました。相手は0603サイズ、つまり長さ0.6mm、幅0.3mmという超小型部品です。しかも、1個ずつ扱うわけではありません。私たちは、数千個のマラチップを1トレイ単位で処理しながら、最終的には毎日4億個という膨大な生産量を実現しなければなりませんでした。さらに、フェライト材料特有の寸法ばらつき・微小欠けやクラック・電極塗布位置精度・塗布量管理・品質保証・既存設備との連携など、多くの課題が複雑に絡み合っていました。
このテーマを通じて私は、自動化とは単なる機械化ではなく「現象を理解し、人の知恵を機械へ移植する作業」であることを改めて実感しました。
2.MLCIとは何か ― MLCCとの違い
2-1.MLCIの役割
MLCI(Multilayer Ceramic Inductor)は、フェライトを積層して作られる電子部品です。主な役割は、ノイズ除去(EMI対策)・電流の平滑化・信号の安定化です。スマートフォンや自動車、通信機器など、あらゆる電子機器に搭載されています。
フェライトは磁性体であり、磁気エネルギーを蓄えるという特徴を持っています。
2-2.MLCCとの違い
MLCIと MLCC、主材料は、 フェライト 誘電体です。蓄えるものが、MLCIは 磁気エネルギー、MLCCは 電気エネルギーの違いがあります。主な用途は、ノイズ対策 デカップリングです。この違いが、外部電極工程の難しさに直結します。フェライトは脆く、...

長年解決が難しかった超小型電子部品「MLCI(積層セラミックインダクタ)」の外部電極塗布工程。0603という極小サイズかつ日産4億個という膨大な量産体制において、フェライト特有の寸法ばらつきや脆さをいかに攻略し、自動化を実現するかは至難の業でした。本記事では、機械部門の技術士である著者が、単なる設備の機械化にとどまらず「現象の解明」と熟練者の「暗黙知の形式知化」によって挑んだ、高難度な自動化プロジェクトの舞台裏を解説します。T(公差)・Z(塗布領域)・Zero Defectの視点に基づく工程再設計から、課題解決に至る5つの技術的アプローチまで、自動化の本質に迫る泥臭くも実践的な知見をお届けします。
1. はじめに― なぜこの自動化は難しかったのか

私は機械部門の技術士として、これまで数多くの生産技術課題に取り組んできました。その中でも、今振り返ってみても特に難易度が高かったテーマの一つが、MLCI(積層セラミックインダクタ)外部電極塗布工程の自動化でした。一見すると「電極を塗る工程を自動化するだけ」と思われるかもしれません。
しかし、現実は全く違いました。相手は0603サイズ、つまり長さ0.6mm、幅0.3mmという超小型部品です。しかも、1個ずつ扱うわけではありません。私たちは、数千個のマラチップを1トレイ単位で処理しながら、最終的には毎日4億個という膨大な生産量を実現しなければなりませんでした。さらに、フェライト材料特有の寸法ばらつき・微小欠けやクラック・電極塗布位置精度・塗布量管理・品質保証・既存設備との連携など、多くの課題が複雑に絡み合っていました。
このテーマを通じて私は、自動化とは単なる機械化ではなく「現象を理解し、人の知恵を機械へ移植する作業」であることを改めて実感しました。
2.MLCIとは何か ― MLCCとの違い
2-1.MLCIの役割
MLCI(Multilayer Ceramic Inductor)は、フェライトを積層して作られる電子部品です。主な役割は、ノイズ除去(EMI対策)・電流の平滑化・信号の安定化です。スマートフォンや自動車、通信機器など、あらゆる電子機器に搭載されています。
フェライトは磁性体であり、磁気エネルギーを蓄えるという特徴を持っています。
2-2.MLCCとの違い
MLCIと MLCC、主材料は、 フェライト 誘電体です。蓄えるものが、MLCIは 磁気エネルギー、MLCCは 電気エネルギーの違いがあります。主な用途は、ノイズ対策 デカップリングです。この違いが、外部電極工程の難しさに直結します。フェライトは脆く、焼成時の収縮ばらつきも大きいため、同じ0603サイズであっても寸法が完全には揃いません。
この「わずかな違い」が、自動化では大きな問題になります。
3.外部電極工程とは何か
読者の中には「外部電極塗布工程とは何をしているのか」と思われる方もいるかもしれません。外部電極工程は、焼成されたチップの両端に電極を形成し、基板実装できる状態にする工程です。一般的には次のような流れになります。
- 焼成済みチップ供給
- チップ整列・位置決め
- 外部電極ペースト塗布
- 乾燥
- 焼付け焼成
- めっき処理
- 外観検査
- 電気特性検査
この中でも、最初の塗布工程が品質を大きく左右します。塗布不良が発生すると、オープン不良・短絡不良・はんだ実装不良・信頼性低下につながるためです。まさに製品品質を決定する重要工程でした。
4.外部電極塗布工程の本質的な難しさ
当時、私たちは数千個のチップを1トレイ単位で処理していました。ここで大きな問題がありました。人間であれば「少しずれている」「このチップは欠けている」「塗布量が少ない」と直感的に判断できます。しかし機械にはそれができません。
主な課題は次の通りでした。
- 微小チップへの均一塗布
- チップ寸法ばらつきへの追従
- 数千個同時処理時の位置精度維持
- 塗布量の安定制御
- クラック・欠けの防止
- 高速処理と品質の両立
特に難しかったのは「ばらつきを持つワークをどう機械に理解させるか」でした。ここが人と機械の最も大きな違いでした。
5.TZ課題とは何だったのか
このプロジェクトでは、工程内に長年解決できなかった根本課題が存在していました。私はこれを再整理し、次の3つの視点で考えました。
- T:Tolerance(公差)
- Z:Zone(塗布有効領域)
- Zero Defect(不良ゼロ)
つまり「装置を作れば解決する」のではなく「工程そのものを再設計する」必要があったのです。例えば、チップ寸法公差が大きいと、塗布位置がずれます。塗布位置がずれると、有効電極領域(Zone)を外れてしまいます。
その結果、
などにつながります。つまり、公差と品質は密接につながっていたのです。

チップ寸法ばらつき → 塗布位置ずれ → 有効電極領域(Zone)逸脱 → オープン不良・短絡不良
6.技術的解決へのアプローチ
6-1.まず工程を分解した
問題が複雑なとき、私は必ず機能分解を行います。この工程を次のように分解しました。
- チップ認識
- 位置補正
- 塗布量制御
- 乾燥・焼成挙動
- 品質判定
- 外観検査
すると、それまで見えなかった問題が次々に見えてきました。
外部電極塗布工程
├─チップ認識
├─位置補正
├─塗布量制御
├─乾燥・焼成
├─品質判定
└─外観検査
6-2.暗黙知を形式知へ変える
次に行ったのが、熟練者の判断基準の見える化です。ベテラン作業者は「何となく違和感がある」と言います。しかし自動化では「何となく」は使えません。そこで、どこを見ているのか、何を基準に良否判定しているのか、どれだけなら許容できるのかを徹底的にヒアリングしました。
そして、
へ変換しました。つまり、勘を制御理論へ変換したのです。
6-3.試作で直面した予想外の問題
試作初期には、数千個を処理するたびに欠けやクラックが発生しました。原因を調査すると、チップを保持する機構の剛性が高すぎたことが分かりました。金属機構としては十分な剛性を持っていたのですが、相手は脆性材料であるフェライトです。わずかな押圧力の変化が、欠けやクラックにつながっていたのです。
最終的には、
- 保持荷重の最適化
- 接触部材の見直し
- 加圧方法の変更
を繰り返し、ようやく安定した工程を実現することができました。
この経験から学んだのは「機械の常識が、材料の常識とは限らない」ということでした。
7.機械部門技術士として重視した5つの視点

現象理解
├─公差設計
├─暗黙知の形式知化
├─アルゴリズム化
├─実験と検証
└─品質保証
① 現象を疑う
最初から装置を考えない。まず物理現象を理解する。
② 公差設計から見直す
ばらつきを許容する設計を考える。
③ 人の判断を言語化する
熟練技能を数値へ変換する。
④ アルゴリズム化する
制御ロジックとして実装する。
⑤ 小さく試し、早く修正する
机上設計だけでは答えは出ない。
現場で試しながら完成度を高める。
8.このプロジェクトから学んだこと
このプロジェクトで得た教訓は明確でした。
- 工程を物理現象として理解する
- ばらつきを数値化する
- 暗黙知を形式知へ変換する
- 公差設計と制御設計を統合する
- 品質保証まで含めて設計する
自動化とは、単なる省人化ではありません。人が持つ経験、勘、知恵を工学へ変換する作業です。そして、高難度な自動化ほど、最先端技術よりも原理原則が重要になります。
9.おわりに
MLCI外部電極自動化は、材料工学、機械設計、制御工学、品質工学、生産工学が融合した総合技術課題でした。毎日4億個という膨大な生産量を支えるためには、設備だけでなく、工程そのものを理解し直す必要がありました。振り返ると、最も重要だったのは「現象から考える」という姿勢だったと思います。
若い技術者に伝えたいことがあります。難しい問題ほど、答えは意外にも基本の中にあります。そして、自動化の本質とは、機械を設計することではなく「人の知恵を設計すること」なのです。
※本記事を執筆した専門家「森内 眞」が講師のセミナー 一覧