
「システムは予定通り完成したのに、現場では相変わらずExcelや紙が使われている…」
製造業のDXプロジェクトで、誰もが一度は直面するこの深い悩み。システムに不具合があるわけでもないのに、なぜ現場は使ってくれないのでしょうか?その原因は、開発技術の不足ではなく、要件定義における「業務要求」と「システム要件」のすれ違いにあります。本記事では、現場に愛されるシステムを作るために絶対に外せない「正しい要件のつなぎ方」を分かりやすく解説します。プロジェクトを失敗に終わらせないためのヒントが、ここにあります。
~業務要求とシステム要件をつなぐ技術~
製造業DXを成功に導くプロジェクトマネジメント実践講座【2】
1.はじめに
「システムは予定どおり完成した。しかし、現場ではほとんど使われていない。」
このような話は、製造業のDXプロジェクトでは決して珍しくありません。
開発は予定どおり終わり、品質試験も問題なく完了した。それにもかかわらず、稼働後にはExcelや紙の帳票が残り、「結局、以前のやり方の方が使いやすい」という声が聞こえてきます。
これはシステム開発が失敗したのでしょうか。
答えは半分正しく、半分間違っています。
システムそのものは仕様どおりに作られています。しかし、その仕様が「現場が本当に必要としていたこと」と一致していなかったのです。
前回は、DXプロジェクト成功の鍵は要件定義にあることを説明しました。
今回は、その要件定義の中でも最も重要な「業務要求」と「システム要件」の違いについて考えてみます。
2.システムは要求どおりに作られる
開発会社は、基本的に「要求されたもの」を作ります。つまり、
「仕様どおりに動かない」
ことは問題になりますが、
「現場が使わない」
ことは、仕様どおりであれば契約上は問題にならないこともあります。
ここに大きな落とし穴があります。
例えば、
「検索画面が欲しい。」
という要望があったとします。
開発会社は検索画面を作ります。
しかし、本当に現場が困っていたのは、
「検索できないこと」
ではなく、
「検索する時間が長過ぎること」「検索項目が異なる」「任意検索ができない」
だったかもしれません。
さらに言えば、
「検索しなくても済む仕組み」
を求めていた可能性もあります。
つまり、
要望と要求は違うのです。
3.業務要求とは何か
業務要求とは、
業務上、何を実現したいのか
という目的です。
例えば、
- 生産計画を早く作りたい
- 在庫を減らしたい
- 納期回答を短縮したい
- 品質異常を早く発見したい
これらはすべて業務要求です。
ここではまだ、画面も帳票も、データベースも、AIも、クラウドも登場しません。
つまり、
業務要求は「仕事」の話
なのです。
4.システム要件とは何か
一方、
システム要件は
「その仕事を実現するためにシステムへ求める機能」
です。
例えば、
在庫を減らしたい
↓
リアルタイム在庫照会が必要
↓
在庫検索画面を作る
↓
検索条件は・・・
ここで初めて画面設計が始まります。
しかし、多くのプロジェクトでは、
最初から
「画面はどうする?」
「ボタンは?」
「帳票は?」
という話になってしまいます。
これでは、本来解決したかった課題が見えなくなります。
5.現場が使わないシステムはこうして生まれる
私が経験したある製造業では、新しい生産管理システムを導入しました。
しかし、稼働後も担当者は毎日Excelへ転記していました。理由を聞くと、
「この一覧では判断できない。」
という答えでした。調べてみると、システムには必要なデータは全て入っています。
ところが、現場では「設備ごとの優先順位」で仕事をしていました。
一方、システムは「品目順」で表示されていたのです。
つまり、機能は完成していましたが、仕事の流れが設計されていませんでした。
これは、システム要件だけを議論し、業務要求を十分に整理しなかった典型例です。
6.業務要求とシステム要件をつなぐ技術
では、どうすればよいのでしょうか。
私は必ず次の順番で整理します。
① 現場の目的を聞く
↓
② 困っている理由を聞く
↓
③ 本当に解決すべき課題を整理する
↓
④ 業務をどう変えるか考える
↓
⑤ システム要件へ変換する
この順番を守るだけで、不要な機能は大きく減ります。そして、本当に現場が使うシステムになります。
7.「何を作るか」より「何を実現したいか」
DXでは、最新技術よりも重要なことがあります。
それは、「何を作るか」ではなく、「何を実現したいか」を議論することです。
業務要求が整理されていれば、AIでも、ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)でも、生産スケジューラでも、最適な選択ができます。
逆に、業務要求が曖昧なままでは、どんな優秀なシステムを導入しても、現場は使ってくれません。
8.まとめ
現場が使わないシステムが生まれる原因は、開発技術ではありません。業務要求がシステム要件へ正しく変換されていないことです。
要件定義では、「どんな画面を作るか」ではなく、「どんな仕事を実現したいか」から考えることが重要です。
この視点を持つだけで、DXプロジェクトの成功率は大きく向上します。
次回は、「Excel業務をなくすだけではDXにならない」をテーマに、業務改善とデジタル化の違いについて解説します。





