ギリギリまで作らない、運ばない、仕入れない (その13)

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1.例えば単価10万円の商品で考えて見ましょう

 
 前回のその12に続いて解説します。商品単価が安い商品なら品切れも欠品も、消費者にとっても、サプライヤー、バイヤーにとっても大きな問題ではなさそうです。店舗の在庫照会を検索しながら、時間がかかるようなら代替品を購入するか、待てるような時間なら予約して入荷時に連絡をもらうかの選択でしよう。ところが商品単価が高い場合、欠品の数量によってもアクションが違いますが、どの位のアクションの選択肢を持っていますか? イメージとして10万円の商品を30個購入してくれる企業が現れたとします。チェーン展開している企業なので納品先は全国の店舗になります。このような場合、検索する優先順位としては、次の①から⑤です。
 
 ➀ 国内の自社所有の在庫がいくつあるか 2個 即納可能
 ② 国内の自社所有の在庫の中で、部品変更などの再加工をして出荷出来そうな数量は5個1週間納期
 ③ 国内の他企業所有の在庫(商社在庫、関連企業所有)2個 即納
 ④ 国内工場での生産 来週の生産計画に入れられる30個2週間納期
 ⑤ 海外(中国)のHUBに在庫 30個 再加工の必要あり、1週間(Air使用) 
 
 あなたの会社で上記のような選択肢がいくつか30分以内にリストアップできますか?在庫数量と納品までのプロセスとそれに必要な日数をシミュレーション出来ますか?
 
 ③、⑤は選択肢として実施出来ない企業もあるかと思います。しかし、「ギリギリまでつくらない、運ばない、仕入れない」ではこれらの③と⑤も選択肢の1つです。これは「SCMは全体最適解が目的」と定義していますが、ほとんどの場合コストがその判断基準と言います。ギリギリではSCMの場合利害関係のあるプレイヤーがコスト最少化するには困難が伴うので、在庫最少時が全体最適解と位置付けています。このため他企業所有の在庫も引き当て対象にします。そして30分以内に、上記のようなレベルで在庫の有無、納期までのLTが表示できるようにします。
 
 この会社の優先順位は➀、②、③(商社所有)、④、③(関連企業所有)、⑤の順でした。この優先順位からしても9個は即納(数日以内)、残り11個は国内生産完了後の2週間後になります。ところがこのお会社は⑤を選択して1週間で納品する事を意思決定しました。
 

2.事業部制の組織判断とSCM本部の判断は違う

 
 日本企業のほとんどは事業部制組織です。上記のような例の場合在庫責任は事業部にあります。まして海外にある在庫は対象外の事業部が多い事も事実です。仮に海外含めた事業責任が事業部にある場合は、この場合でも売り上げは上がるでしょうが、余分な経費も発生し、事業収益に大きく影響するので海外からの横持ちと言う意思決定はしないはずです。
 
 この会社の場合、SCM本部があり生産計画、各地のセンターへの振り分け補充計画、などの権限があります。と同時に在庫責任も発生します。2年前この組織が出来てから在庫が一時的に20%増えた時などは組織評価が最低になったという事です。この本部の評価項目は欠品日数、在庫率の増減、不動在庫比率、1,000個当たりのスループットなどが主な評価です。
 
 だから横持ちしてでも、売れるのなら売るという方針になります。そもそもなぜ中国に在庫があったのか、この現象に対する原因究明から始まります。このまま中国に在庫を置いていても、いつかは売れるが、1週間以内に売れる確率は、はっきりしない事。仮に日本に横持ちしても業務費用が増えるが、1,000個当たりのスループットには数%しか影響しないことが意思決定の主因だったようです。
 

3.なぜ海外から横持ちしたのでしようか?

 
 直接原価計算で判断すれば、逆輸入のコスト(再加工、再梱包、輸送、空荷ビルドアップ、空輸、ブレイクダウン、配送)は経費です。(TOCで言う、業務費用に当たります)「ギリギリまでつくらない、運ばない、仕入れない」その6参照)この在庫検索も国内在庫保有場所の検索ですが、この商品のサプライヤーは国内在庫保有企業も検索します。もちろん在庫保有企業の承認が必要ですが、名義変更して販売する方法があります。それと海外の在庫照会も行います。この場合、海外が所有している在庫品は何かの変更(部品交換、取説やラベル張替えなどの作業)が必要かどうかの判断とどこの空港経由でいつ頃到着するか。あるいは国内の工場で通常の生産品を充当する場合、どの位に日数で納品できるか。
 
 最初に例として1個当たりの商品価格が10万円というのが、私にとっては判断するラインです。安価商品なら無条件欠品状態にして、次回の生産なり入港を待ちます。逆に高額商品なら近郊エリアで1週間以内に納品でき、かつ業務費用が1個当たり20万円以下なら横持ちします。この商品価格の境界線が10万円(これは私の経験値なので、あなたの企業の場合まずは在庫照会ができる事、名義変更できる企業間を増やす事、どこからどこなら何日何万円という業務費用のリストを作成しておくこと、この3点をメインにして下さい)
 
 次に運営組織です。在庫責任はどこの組織が持っていますか?多くの企業は明確になっていません。事業部が在庫責任をもうとしても、生産計画は別の組織が持っていたりする企業もあります。在庫責任という事は生産計画、輸入計画などを統括する事です。そうしなければ在庫に関する責任は曖昧になります。
 
 最後に質問します。クライアントから受注予定があります。あくまでも確定ではありません。受注品は特殊品で生産LTも長く必要です。この場合、生産、素材、部...

1.例えば単価10万円の商品で考えて見ましょう

 
 前回のその12に続いて解説します。商品単価が安い商品なら品切れも欠品も、消費者にとっても、サプライヤー、バイヤーにとっても大きな問題ではなさそうです。店舗の在庫照会を検索しながら、時間がかかるようなら代替品を購入するか、待てるような時間なら予約して入荷時に連絡をもらうかの選択でしよう。ところが商品単価が高い場合、欠品の数量によってもアクションが違いますが、どの位のアクションの選択肢を持っていますか? イメージとして10万円の商品を30個購入してくれる企業が現れたとします。チェーン展開している企業なので納品先は全国の店舗になります。このような場合、検索する優先順位としては、次の①から⑤です。
 
 ➀ 国内の自社所有の在庫がいくつあるか 2個 即納可能
 ② 国内の自社所有の在庫の中で、部品変更などの再加工をして出荷出来そうな数量は5個1週間納期
 ③ 国内の他企業所有の在庫(商社在庫、関連企業所有)2個 即納
 ④ 国内工場での生産 来週の生産計画に入れられる30個2週間納期
 ⑤ 海外(中国)のHUBに在庫 30個 再加工の必要あり、1週間(Air使用) 
 
 あなたの会社で上記のような選択肢がいくつか30分以内にリストアップできますか?在庫数量と納品までのプロセスとそれに必要な日数をシミュレーション出来ますか?
 
 ③、⑤は選択肢として実施出来ない企業もあるかと思います。しかし、「ギリギリまでつくらない、運ばない、仕入れない」ではこれらの③と⑤も選択肢の1つです。これは「SCMは全体最適解が目的」と定義していますが、ほとんどの場合コストがその判断基準と言います。ギリギリではSCMの場合利害関係のあるプレイヤーがコスト最少化するには困難が伴うので、在庫最少時が全体最適解と位置付けています。このため他企業所有の在庫も引き当て対象にします。そして30分以内に、上記のようなレベルで在庫の有無、納期までのLTが表示できるようにします。
 
 この会社の優先順位は➀、②、③(商社所有)、④、③(関連企業所有)、⑤の順でした。この優先順位からしても9個は即納(数日以内)、残り11個は国内生産完了後の2週間後になります。ところがこのお会社は⑤を選択して1週間で納品する事を意思決定しました。
 

2.事業部制の組織判断とSCM本部の判断は違う

 
 日本企業のほとんどは事業部制組織です。上記のような例の場合在庫責任は事業部にあります。まして海外にある在庫は対象外の事業部が多い事も事実です。仮に海外含めた事業責任が事業部にある場合は、この場合でも売り上げは上がるでしょうが、余分な経費も発生し、事業収益に大きく影響するので海外からの横持ちと言う意思決定はしないはずです。
 
 この会社の場合、SCM本部があり生産計画、各地のセンターへの振り分け補充計画、などの権限があります。と同時に在庫責任も発生します。2年前この組織が出来てから在庫が一時的に20%増えた時などは組織評価が最低になったという事です。この本部の評価項目は欠品日数、在庫率の増減、不動在庫比率、1,000個当たりのスループットなどが主な評価です。
 
 だから横持ちしてでも、売れるのなら売るという方針になります。そもそもなぜ中国に在庫があったのか、この現象に対する原因究明から始まります。このまま中国に在庫を置いていても、いつかは売れるが、1週間以内に売れる確率は、はっきりしない事。仮に日本に横持ちしても業務費用が増えるが、1,000個当たりのスループットには数%しか影響しないことが意思決定の主因だったようです。
 

3.なぜ海外から横持ちしたのでしようか?

 
 直接原価計算で判断すれば、逆輸入のコスト(再加工、再梱包、輸送、空荷ビルドアップ、空輸、ブレイクダウン、配送)は経費です。(TOCで言う、業務費用に当たります)「ギリギリまでつくらない、運ばない、仕入れない」その6参照)この在庫検索も国内在庫保有場所の検索ですが、この商品のサプライヤーは国内在庫保有企業も検索します。もちろん在庫保有企業の承認が必要ですが、名義変更して販売する方法があります。それと海外の在庫照会も行います。この場合、海外が所有している在庫品は何かの変更(部品交換、取説やラベル張替えなどの作業)が必要かどうかの判断とどこの空港経由でいつ頃到着するか。あるいは国内の工場で通常の生産品を充当する場合、どの位に日数で納品できるか。
 
 最初に例として1個当たりの商品価格が10万円というのが、私にとっては判断するラインです。安価商品なら無条件欠品状態にして、次回の生産なり入港を待ちます。逆に高額商品なら近郊エリアで1週間以内に納品でき、かつ業務費用が1個当たり20万円以下なら横持ちします。この商品価格の境界線が10万円(これは私の経験値なので、あなたの企業の場合まずは在庫照会ができる事、名義変更できる企業間を増やす事、どこからどこなら何日何万円という業務費用のリストを作成しておくこと、この3点をメインにして下さい)
 
 次に運営組織です。在庫責任はどこの組織が持っていますか?多くの企業は明確になっていません。事業部が在庫責任をもうとしても、生産計画は別の組織が持っていたりする企業もあります。在庫責任という事は生産計画、輸入計画などを統括する事です。そうしなければ在庫に関する責任は曖昧になります。
 
 最後に質問します。クライアントから受注予定があります。あくまでも確定ではありません。受注品は特殊品で生産LTも長く必要です。この場合、生産、素材、部品などへの手配はどのようにしますか?在庫責任を持っている組織なら、手配はします、生産も開始しますが、途中で確定情報が来るまでストップです。万が一確定情報が来なかった場合、仕掛品は不動在庫です。本土の横持ちするかしないか、受注予定の段階からつくり始めるか確定まで待つか、などの意思決定を企業の組織、評価、商品価格、生産LTなどを考慮して基本基準をつくっておいた方が良いと思います。一番困るのは人によって判断が違う事。
 
 ベンチマーキングは写真のウエザーニュース社です。全国のあらゆるデータをモニタリングしながら、天気予報、警告、今この瞬間の状況を刻一刻と情報提供しています。今、どこで何がいくつつくられていて、どこからどこへ何がいくつは運ばれていて、販売店では何がいくつ売れているのか、モニタリングしながら指示を出す仕組みを是非考えてください。
 
          scm
 
 今回の「ギリギリまでつくらない、運ばない、仕入れない」はここまでにします。次回以降もチェーンの速さについて議論を進めてまいります。
 
  

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この記事の著者

細木 和茂

SCM時代は、私のモットー「ギリギリまでつくらない、運ばない、仕入れない ものづくり」を推進する事で儲けさせます、成長させます。

SCM時代は、私のモットー「ギリギリまでつくらない、運ばない、仕入れない ものづくり」を推進する事で儲けさせます、成長させます。


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